程よく温くなったうどんを啜りながら、ぽつりぽつりと言葉を交わした。

「…さっきの飲み会での私、すごい痛い奴でしたよね。」

「カッコ良かったよ。」

「……もう会社行っても、前みたいな人間関係には戻れないですよね…。」

「そうかもしれないな。
でも、それでいいんじゃない?」


「……冬至さん。
来週から私、ここに来なくなったら嫌ですか?」


心は既に決まっていた。
少なくとも、今勤めている会社が、私らしくいられる居場所だとは思えなかった。

冬至さんや友達に心配をかけてまで、自分を偽り続けるのはやめよう。
これまで信じ続けてきたことをリセットするのが、こんなに勇気が要るなんて思わなかった。

辞めるも続けるも、未来の自分を選べるのは、今の自分だけだ。

夜の住人をやめて、昼の世界に戻ることも、今の自分しか決められない。


「美郷さんが俺を(おぼ)えていてくれるなら、それで充分だよ。
人間の畏怖なんて要らない。君がいつまでも俺の飯を想ってさえいてくれれば。」


だから、大好きな冬至さんと、大好きな大江山と、思い出のテッペン横丁から離れるという道も、私に与えられた選択肢のひとつなんだ。

「…夢から、覚める時間ですね…。」

ぼやける視界の中で、私は箸で、とろろに浮かぶ黄身を割った。