翌週の金曜日。

「……はぁぁ……。」

時刻は深夜1時。
私は未だに会社のデスクに向かい、明日の社内プレゼン用の企画書作成に追われていた。
せっかくの金曜日が、ついさっき土曜日に変わってしまった。

なぜわざわざ土曜にプレゼンをするかというと、週明けのお客様への提案の前に、一度社内で擦り合わせをしておこうというリーダーの意向だ。

中小の広告代理店は過酷。
1年のほとんどが繁忙期なのは勿論、その営業職となると特に、癖の強いお客さんと、疲労でピリピリしやすい弊社員との板挟みになるから、精神の消耗が激しい。

2年目だというのに未だに仕事を思うように回せない。今日だって、校了間際になって大幅な修正を求めて来たお客さんを、私は止められなかった。

そのせいで制作部の人には22時過ぎまで残ってもらったし、私のプレゼン資料を作る時間も、23時になってやっと確保することができた。


「…疲れたひとの、心を癒す…。」

何本目かも分からないエナジードリンクを飲みながら、キャッチコピーを打ち込んで、ふと手が止まる。
頭の中に溢れていた文章の洪水がピタッと止まる。

企画の内容は我ながら、とても希望に満ちている。
新規オープンのプライベートサウナ施設。そこには、日頃のストレスに晒された人を癒すためのサービスや設備が用意されている。

“頑張るのは一旦お休み。”
“体と心をリセットしよう。”

優しさに満ちている言葉の数々。
でも、これを書いている私は…いつから…


フリーズした私の頭に、凛花のあの言葉が自然と浮かんできた。

『私は、美郷自身が今の自分を好きなら、それでいいと思うけどさ。
…でも、一度よく考えてみてほしいかな。』

それから次に浮かんだのは、

『月見さんの居場所は、ちゃんとある?』

いつかの冬至さんの言葉だった。


「…………。
…あぁ、お酒飲みたいなぁ……。」

深夜のシンと静まり返ったオフィスに、私の呟きが溶けていく。
いつまでもフリーズしてはいられない。
やや強めにほっぺをつねって、再び頭の中を構成で埋め尽くした。