「赤提灯だ。」

ふと目に止まった赤色に、私は足をも止めていた。

何度も何度も歩き慣れた、会社から駅までの退勤路。その途中の路地裏の奥に、あんなレトロな提灯なんてあったかな?

赤提灯と言えば居酒屋の証。
会社の飲み会を除いて、ここ半年くらいは個人的に居酒屋に行ってなかった。
会社の飲み会はいつも突発的で、こちらの都合なんてお構い無し。上司の顔色とグラスの空き具合を確認するのに忙しくて、お酒と料理を楽しんでる暇が無いから、正直あんまり気が進まない。

腕時計を見ると、深夜0時丁度。
まだ辛うじて終電があるから、このまま家に帰って冷凍パスタを食べて、軽く晩酌でもして…。そう思ってた矢先の赤提灯。

「ん…。」

私は喉をごくりと動かす。
今日は木曜日。明日も仕事がある。せっかくお店に入るなら、ちゃんとゆっくり堪能できる日を確保して…。


ーーーでも、それっていつだろう?


…なんだ。最初から答えは決まってたんだ。

家まではタクシーを使えばいい。乗り換え無しで3駅の近い距離だ。
私はパンプスの爪先を、駅方向から逸れた赤提灯の方へ向けた。