私が工藤の元へ駆けつけると、村人達は教会とも礼拝堂とも言えるような村の大きな建物の中に避難したようであった。
工藤の目の前には、先程の魔族、グリアモールの姿が。
奴は私達とは少し離れた場所に置物か石像かというように無機質に佇ずんでいる。
二度目とはいえ、やはり何度見ても慣れない。
相変わらず気持ち悪い様相をしている。

「工藤、大丈夫か?」

「おせえよっ!」

工藤はグリアモールを睨みつけたままぶっきらぼうに答える。
どうやらまだ戦いが始まったわけではないようだ。
それに私はほんの少し安堵する。
だが工藤の肩は少し震えているように見える。
つい先程の戦いは記憶にまだ新しい。恐れを抱いているのも無理はない。

「フフフ……待っていたヨ。しかし中々早かったねエ。ここまではあの洞窟カラかなりの距離があると思ったんだケド。ちょっとばかり驚いたよ」

「貴様は遅かったのだな。もうとっくに村に着いているものと思っていたが?」

グリアモールの物言いに違和感を覚えつつ、探るような言葉を返してみる。

「フフフ……。まあいいじゃないか。その方が助かっただろう? フフフ……」

けれど奴は不敵に笑うだけ。
相変わらず不気味な奴だ。
本当のところは分からないがその物言いから何かあるのではと思わせてくる。
人の心理を利用するのが上手いのか、何を考えているのか分かりづらい。
だが先程のような恐怖心はすっかり失せていた。妙に落ち着いているのだ。

「貴様の目的は何なのだ。なぜこんな事をする?」

「フフフ……」

「何がおかしい?」

「おかしいのは君達の方サ。なぜこんなコトをするのかだって? 楽しいからに決まっているじゃナイカ。我々魔族ガ人間ごときと関わるのに、そんな大層な理由などナイよ。君達はサ、おもちゃで遊ぶのにいちいち理由を求メルのかい? 敢えて言うなら暇潰しとカ、そんな所カナ?」

「くっ! てめえ! いい加減にしやがれってんだ! 俺達を何だと思ってやがる!」

工藤が叫ぶがそれは逆効果だ。
奴はきっとそうやって私達が恐れたり、戦いたりする様を楽しんでいるのだ。
そんな掠れた声で叫んだりするなど、私は怖がっていますと相手に示すようなものだ。

「フフフ……、だからおもちゃだって言ってるダロう? 本当に君は馬鹿なんダねえ」

「なっ、何おうっ!?」

「やめろ工藤、奴の話に耳を傾けるな」

「くっ……隼人……」

ヒートアップする工藤を私は一旦手で制する。
渋々ながらも工藤は一度口をつくんだ。

「グリアモールとやら。貴様の目的がどこにあるのか、その全容は分からない。だが今、貴様は私達を覚醒させ、私達全員の能力を確認しているのだと推測するが、それについてはどうだ?」

グリアモールがどこまで話せる相手なのかは分からない。
だがこのまま真っ向から戦っても勝機が無い事は先程の戦いで身を以て実感している。
私は思いきって一度、冷静にこの魔族と会話をしてみる事にしたのだ。

「フフフ……そうダヨ。だから君の能力と、もう一人いるだロウ? その子の能力を見せてもらってもいいカナ? まだ覚醒していないのナラそうなるように手伝ってあげるケド?」

グリアモールは自分の腹の内を案外あっさりと吐露した。
それが何処まで信用出来るのかは分からない。
だがおおよそ予想通りの返答であったのだ。
ならば交渉の余地はあると私は確信する。

「そうか、了解した。その心配はいらん。もう一人もじきに覚醒してここへやって来るのだ。待っている間に、どうだ。まずは私の能力を見せようと思うのだが、構わないか?」

「――ナンダ。随分素直じゃないカ」

「…………」

若干の間。そこから放たれた言葉に凄みを感じる。
口の中が渇いて心臓がドクドクと脈打っていた。
私の言葉に少し意表を突かれたか、こちらを警戒したかもしれない。
だが今更引き下がるつもりはない。
それに警戒された所でそれは些末なことだ。
この魔族は自分に相当の自信を持っている。
結局のところ私達を嘲っているのだ。
警戒を強めるとはいっても所詮気には留めないだろう。
私はそれを確信していたのだ。

「貴様とまともにやりあってもどうしようもないのは先程の戦いで分かっている。なので一つ、ゲームをしてはくれまいか?」

「――ゲーム? ナンダソレハ」

「遊戯だ。遊びということだ」

グリアモールは相変わらずの無表情。だがかなり訝しんでいる。
意味不明な言葉が飛び出し、意表をつけたといったところか。
少しだが、こちらのペースに上手く嵌まったのではないだろうか。