城に帰った後、アリーシャは事の顛末の報告を受けた国王である父、アンガスにすぐさま呼び出された。
勿論そこでは自身の身を案じるというようなものではない、こっぴどいお叱りを受けた。
だがアリーシャにとってそれは苦ではなかった。
更に言うと娘として心配されるよりも、騎士としてどうあるかについて問われた方がよっぽど気が楽だったのだ。
だから国王の言葉も、自身に問われた処遇も何のわだかまりもなく受け入れられた。
まあ実際処遇は簡単なものだ。一週間の自室での謹慎処分。
自身の罪としてはかなり軽い方だと思う。
体罰なども覚悟していたアリーシャにとっては拍子抜けだ。
そしてやはり自身は娘としてそこまで冷遇されているのではないのではとも思った。
アリーシャ自身、今回の事については深く反省していた。
今回の処遇は甘んじて受け入れているし納得とまではいかないまでも罪を受けることは良しとしている。
厄介だと思ったことは他の家族の反応だった。
王妃であり、母親のメイサは酷く悲しみ涙を流した。
アリーシャからしたら剣の道に自分を引き込んでおいて、今更何だと思わなくもなかった。
親とはやはり身勝手なものだと思うのだ。
双子の兄アストリアには、何故か謝られた。
アストリアは結局アリーシャに対し、それなりに思う所があったのだろう。
自身が常に比較対象として見られたことや、彼が剣の腕が立ちすぎることが結果としてアリーシャを卑下する対象として貶められたことなどか。
だがそんな事はアリーシャにとっては今更どうでもよかった。
ただこれからもアリーシャにとって兄は越えるべき存在であり、目標、ライバルなのだ。
家族の中で唯一心を許せるのは弟のアーノルドだ。
彼は何故か兄よりも自分に良く懐き、今回の件も「姉上、カッコいい!」 と屈託ない笑顔を向けられる始末。
それには彼女も口元が緩むのを隠しきれなかった。
騎士団長のベルクートには豪快に笑われた。
何なら少し嬉しそうですらあった。
元はと言えばこの人に認められたいという想いからの行動であったのだが、そんな事は露知らず。
それでも彼の「過ちは若い内にどんどんやっておけよ」という一言に心が軽くなったものだ。
最後に、一緒に連れてきてしまったフィリアの処遇だ。
彼女にも勿論処罰が下された。
正直これが一番アリーシャには堪えた。
アリーシャを引き止めなかった事を咎められ、一週間独房での生活を強いられてしまう事となったのである。
食事も水以外与えられず、アリーシャよりも当然のように重い処罰であった。
アリーシャはフィリアに非はないと主張したが、そんな事が受け入れられるはずもない。
フィリアもアリーシャに笑顔で「私は大丈夫ですから」と言ってくれた。
だがアリーシャにとってはそれが尚更辛い。
去り行くフィリアの表情がアリーシャの心に大きな楔を打ち込んだのだ。
ここでアリーシャにとって、フィリアが自身が守るべき大切な存在との認識が強くなったのかもしれない。
自室の謹慎処分の最中、アリーシャはベッドの天幕の中で物思いに耽っていた。
丁度この時間が自分を見つめ直すいい機会となったのだ。
そこで改めて思えた。
自分は今まで思っていた程劣悪な環境に身を置いているとは言えないのではないかと。
寧ろ自身を想う何人もの者達に囲まれて幸せなのではないかと。
そんな正しき想いが彼女の中に、水面に雫が落ちて波紋が広がっていくように。確かに、大きく広がり始めていたのだ。