爽やかな五月の朝。木漏れ日を浴びながら、私は通学路を歩く。
道すがら、小学生たちが横断歩道で旗を持つおじいちゃんに元気よく挨拶しているのを見かけた。塀の上では野良猫が大きなあくびをしており、朗らかな日差しが、猫の白い体を輝かせている。
他にもスーツを着たお父さんと手をつないでいる小さな子どもを見かけた。保育園へ送る途中なのだろう、通勤途中のお父さんは早く行こうと子どもを急かすが、子どもは道に落ちている小さな石を拾ってニッコリと笑っている。
なんて幸せな光景だろう。どれも見ているだけでほっこりとしてしまう。
「紬」
背後から同じクラスの友達が駆け寄ってくる。イヤホンを外し「おはよう」とあいさつすると私の顔を見て友達は首をかしげる。
「すごい幸せそうな顔してる、なにかいいことでもあった?」
「いや、今日も世界は平和だなっと思って」
「なにそれ。紬が一番平和っぽいよ」
そういって笑うと、友達は日直当番の仕事をするために私を追い越し走っていった。
友達を見送り、私はイヤホンを再び耳につける。
爽やかな五月の朝。木漏れ日を浴びながら、通学路を歩く一人の地味な女子高校生。友達の言う通り、私も一見平和っぽい。
だけど、みんなは気づいていないだろう。
地獄に落とす お前はカオス
さっさとくたばれ まるでツタンカーメン!
この私が脳を揺らす重低音のビートに合わせ、いかつい男たちが歌うゴリゴリのラップを聴きながら登校していることを……。
リカと出会ったあの夜から一週間が経った。
リカを成仏させるため、私はラップの練習を受けるようになったのだがが……。
「いい? 私たちがやるラップは対戦相手をディするラップバトル」
「は、はぁ……?」
「ただ相手をディするだけじゃない。相手よりも自分の方がすごいんだってことをわからせる一対一の魂のぶつかりあい。それがラップバトルなんだよ」
「う、うん……?」
「中でもフロアを沸かせるのは即興性とオリジナリティがあふれるリリック。ライムも大事だけど、パンチラインが決まれば一気に流れはこっちのものになる!」
「は、……はい?」
こんな調子で私はリカがなにをいっているのかさっぱりわからなかった。もっと詳しく聞こうとすると「頭で考えずに魂で感じろ」と突っぱねられてしまった。リカは人になにかを教える才能がなかった。
しかし、知識がないとどうしようもないので私はネットで『初心者 ラップ やり方』で検索し、ヒットしたサイトを片っ端から読み漁った。
『ラップバトルとはラッパー同士が小節ごとに即興の歌詞(リリック)を用いてフリースタイルでラップをし、お互いのスキルを競い合うことです。』
あ、リカがよく言っていたリリックって歌詞って意味なのか。
今更すぎる気づきに自分自身で呆れてしまう。こんな調子で大丈夫か私……。
『スキルを競い合うためにラッパーは相手の悪口を言い合う(ディスりあう)ますが、あくまで自分のスキルを見せるためなので相手へのリスペクト(尊敬)を欠いてはいけません。』
悪口を言うのも、言われるのも慣れてなさすぎて不安だな……。あんまりきついことを言われると心がぽきっと折れてしまうかもれない。
私はすでに折れかけた心をなんとか立て直し、記事を読み進める。
『ラッパーにとってのスキルとは観客を盛り上げる(フロアを沸かす)ことです。観客は決められたビートの中で自由に自身の技術を披露するラッパーの姿に感動し、盛り上がります。観客を盛り上げるためのラッパーの基本的な技術を紹介します。』
ラッパーの技術、ここからすごく重要なんじゃない?
私は集中して画面に見入る。
『まずはライム。ライムとは韻を踏むこと、すなわち音の母音を揃えることです。』
母音……? あ。
私はリカと初めて会った時に聞いたリカのラップの一節を思い出す。
握りしめたこのマイク 聞かせてやるぜ魂のライブ
マイクの母音は「あいう」で、ライブの母音も「あいう」である。これがライム、韻を踏むということか。
私は画面をスクロースし、次の項目へと目を通す。
『フロウも大切な要素です。フロウとはつまり歌い方。一般的な歌はよくビブラートを利かすように歌詞の最後を伸ばして歌いますが、ラップの場合はだらしがない印象になり、下手だと思われます。まずは言葉を伸ばさない歌い方を意識しましょう。』
へー、ラップには独自の歌唱方法があるのか。
するとフロウについての項目のすぐ下に、リカが言っていた『パンチライン』という言葉が目に入った。確か、これが決まれば一気に流れはこっちのものになると言っていたけど、一体どんなものなのか。
私はさらに画面をスクロールする。
『パンチラインとは言葉の通り、パンチを食らった時のように「くぅ〜、今のは効いたぜぇ!」となる言葉です。』
えぇ……、急に説明が雑になったな。
でも、あの日の夜、お母さんに対してラップをした時。
黙って言うこと聞いてりゃ良いって私はあんたの人形じゃねえ!
あのリリックは聞いた瞬間(言ったのはリカに乗っ取られた自分だけど)全身に鳥肌がたった。
あのざわわっとしながらも、思わずにやけてしまうような感動。
あれがもしかしたら、私にとってのパンチラインだったのかもしれない。
それにお母さんの言葉に対するアンサーにもなっている。
もしかして、リカって本当にすごいラッパーなのかもしれない。
私は興奮気味にボールペンを走らせ、ラップについてノートにまとめる。
やっぱり私は魂で感じるよりも、頭で考える方が性に合っている。
それから私は登校中や空いた時間にはラップを聞いた。
ビートの乗り方、個性を出すフロウ(歌い方)などたくさん知ることで、数学の公式のように自分のラップを当てはめる基礎を作るためだ。
あとは相手をディする単語たちをノートに書き連ねた。直接的な罵倒から間接的な言い回しなど、ディスりにも様々あって興味深い。さながら英単語を覚えるようにノートが埋まっていった。
塾に早くついたときも、授業が始まるまで私はいつものようにラップを聴きながらノートを取っていた。
「高瀬、授業終わったらさ、二人でご飯行こうよ」
背後からが塾講師の大学生が近づいてきた。しかしラップに夢中になっていた私は大学生に気づかなかった。
「なに見てんの?」
ノートを覗き込む大学生に気づいて、私はイヤホンを取る。
「あ、すみません気づかなくて」
「あぁ、やっぱいいや、なんかごめんね、えへへ……」
そういって、大学生は顔を引きつらせて足早にどこかへ行ってしまった。
改めてノートを見ると、そこにはこれまで聞いたラップから書き出したおびただしいほどの罵詈雑言が書き込まれていた。
夜の公園。
スマートフォンから流れるビートに合わせ、私たちは向き合い身体を揺らす。
「先行は私からいくよ」
ド派手なサングラスをかけたリカはマイクを構え、大きく息を吸う。
Hey Yo!
これから始まる二人のバトル もちろん私が天下取る
初心者だからって容赦はしねえ 先に撮ってろお前の遺影
小節が終わり、リカはマイクを口から離す。
つ、次は私の番だ。え、えっと……。
よ、YO…!
お前のラップ小学生以下 さっさと行けよキッザニア
ままごとするならシルバニア お前の実力足りないや
よし、言えた!
『小学生以下』『キッザニア』『シルバニア』『足りないや』これら全部、韻が踏めている。どうだ! 私が考えに考えた最強のリリック!
喜んでいると、リカはすぐにマイクを握り直す。
実力足りない? そんなことない お前の勘が鈍いだけ!
ここから始まるパーリーナイト 私はお前を狩る騎士(ナイト)
勘が鈍いって?! あ、また私の番だ。
え、えっと……。あれ、考えていたはずなのに頭が真っ白で、なにも出てこない。
「私のラップは……、えーっと……」
そのまま音楽は終わり、バトルは終わった。ラップバトルの勝敗は審査員がつけたり、観客が決めたりするらしい。今はどちらもいないけど、私の負けは明白だ。
リカはサングラスを外し、フーッと息をつく。
「初めてにしてはいいリリックだったよ」
「で、でしょ!?」
「でもアンサーができてない」
「アンサー?」
「どんなにライムを重ねたリリックを歌えても、相手から投げかけられたラップに対応できてなければ観客はお前をラッパーとは認めない。相手のラップに対して即興で返しつつ、その上でライムを刻んだり、スキルを披露できれば自分の実力は本物だという証明になる」
即興って言われても、そんなのできるわけ……。
「あとはどれだけカッコつけるかが鍵」
こうやってさ、とリカは右手をフレミングの法則のように親指、人差し指、中指を突き立て私に向かって差し出す。
「YO! って感じでイケてるぜ感を出しとけば、なんかいい感じだから」
「なにそれ、意味わかんないんだけど……」
ラップを勉強した成果があまり発揮されず落ち込んでいると、リカは私の肩をポンと叩く。実際はすり抜けてしまうので叩いているフリだけど。
「まぁこればっかりは経験だよ」
そう言ってリカはニカっと笑う。きっとリカなりに励ましてくれているのだろう。
「よし、じゃあサイファーに行こう」
「ん? サイファーって?」
「いいからいいから!」
そう言ってリカはぬるんっと私の身体へと入り込む。
『ちょ、ちょっと!?』
「おぉ、私が乗っ取っても心の中で喋れるようになったんだね。乗っ取りに慣れたからかな」
こんなことに慣れたくなかったが、ビートの乗り方を身体で覚えるために何度かリカに乗っ取られていた。リカは私の身体を操り、拳を何度か開いては閉じる。
「だけど身体の自由は私のものだ!」
『いやだ! いやだぁ!!』
私は心の中で叫びながら、私の身体は勢いよく走り出す。
道すがら、小学生たちが横断歩道で旗を持つおじいちゃんに元気よく挨拶しているのを見かけた。塀の上では野良猫が大きなあくびをしており、朗らかな日差しが、猫の白い体を輝かせている。
他にもスーツを着たお父さんと手をつないでいる小さな子どもを見かけた。保育園へ送る途中なのだろう、通勤途中のお父さんは早く行こうと子どもを急かすが、子どもは道に落ちている小さな石を拾ってニッコリと笑っている。
なんて幸せな光景だろう。どれも見ているだけでほっこりとしてしまう。
「紬」
背後から同じクラスの友達が駆け寄ってくる。イヤホンを外し「おはよう」とあいさつすると私の顔を見て友達は首をかしげる。
「すごい幸せそうな顔してる、なにかいいことでもあった?」
「いや、今日も世界は平和だなっと思って」
「なにそれ。紬が一番平和っぽいよ」
そういって笑うと、友達は日直当番の仕事をするために私を追い越し走っていった。
友達を見送り、私はイヤホンを再び耳につける。
爽やかな五月の朝。木漏れ日を浴びながら、通学路を歩く一人の地味な女子高校生。友達の言う通り、私も一見平和っぽい。
だけど、みんなは気づいていないだろう。
地獄に落とす お前はカオス
さっさとくたばれ まるでツタンカーメン!
この私が脳を揺らす重低音のビートに合わせ、いかつい男たちが歌うゴリゴリのラップを聴きながら登校していることを……。
リカと出会ったあの夜から一週間が経った。
リカを成仏させるため、私はラップの練習を受けるようになったのだがが……。
「いい? 私たちがやるラップは対戦相手をディするラップバトル」
「は、はぁ……?」
「ただ相手をディするだけじゃない。相手よりも自分の方がすごいんだってことをわからせる一対一の魂のぶつかりあい。それがラップバトルなんだよ」
「う、うん……?」
「中でもフロアを沸かせるのは即興性とオリジナリティがあふれるリリック。ライムも大事だけど、パンチラインが決まれば一気に流れはこっちのものになる!」
「は、……はい?」
こんな調子で私はリカがなにをいっているのかさっぱりわからなかった。もっと詳しく聞こうとすると「頭で考えずに魂で感じろ」と突っぱねられてしまった。リカは人になにかを教える才能がなかった。
しかし、知識がないとどうしようもないので私はネットで『初心者 ラップ やり方』で検索し、ヒットしたサイトを片っ端から読み漁った。
『ラップバトルとはラッパー同士が小節ごとに即興の歌詞(リリック)を用いてフリースタイルでラップをし、お互いのスキルを競い合うことです。』
あ、リカがよく言っていたリリックって歌詞って意味なのか。
今更すぎる気づきに自分自身で呆れてしまう。こんな調子で大丈夫か私……。
『スキルを競い合うためにラッパーは相手の悪口を言い合う(ディスりあう)ますが、あくまで自分のスキルを見せるためなので相手へのリスペクト(尊敬)を欠いてはいけません。』
悪口を言うのも、言われるのも慣れてなさすぎて不安だな……。あんまりきついことを言われると心がぽきっと折れてしまうかもれない。
私はすでに折れかけた心をなんとか立て直し、記事を読み進める。
『ラッパーにとってのスキルとは観客を盛り上げる(フロアを沸かす)ことです。観客は決められたビートの中で自由に自身の技術を披露するラッパーの姿に感動し、盛り上がります。観客を盛り上げるためのラッパーの基本的な技術を紹介します。』
ラッパーの技術、ここからすごく重要なんじゃない?
私は集中して画面に見入る。
『まずはライム。ライムとは韻を踏むこと、すなわち音の母音を揃えることです。』
母音……? あ。
私はリカと初めて会った時に聞いたリカのラップの一節を思い出す。
握りしめたこのマイク 聞かせてやるぜ魂のライブ
マイクの母音は「あいう」で、ライブの母音も「あいう」である。これがライム、韻を踏むということか。
私は画面をスクロースし、次の項目へと目を通す。
『フロウも大切な要素です。フロウとはつまり歌い方。一般的な歌はよくビブラートを利かすように歌詞の最後を伸ばして歌いますが、ラップの場合はだらしがない印象になり、下手だと思われます。まずは言葉を伸ばさない歌い方を意識しましょう。』
へー、ラップには独自の歌唱方法があるのか。
するとフロウについての項目のすぐ下に、リカが言っていた『パンチライン』という言葉が目に入った。確か、これが決まれば一気に流れはこっちのものになると言っていたけど、一体どんなものなのか。
私はさらに画面をスクロールする。
『パンチラインとは言葉の通り、パンチを食らった時のように「くぅ〜、今のは効いたぜぇ!」となる言葉です。』
えぇ……、急に説明が雑になったな。
でも、あの日の夜、お母さんに対してラップをした時。
黙って言うこと聞いてりゃ良いって私はあんたの人形じゃねえ!
あのリリックは聞いた瞬間(言ったのはリカに乗っ取られた自分だけど)全身に鳥肌がたった。
あのざわわっとしながらも、思わずにやけてしまうような感動。
あれがもしかしたら、私にとってのパンチラインだったのかもしれない。
それにお母さんの言葉に対するアンサーにもなっている。
もしかして、リカって本当にすごいラッパーなのかもしれない。
私は興奮気味にボールペンを走らせ、ラップについてノートにまとめる。
やっぱり私は魂で感じるよりも、頭で考える方が性に合っている。
それから私は登校中や空いた時間にはラップを聞いた。
ビートの乗り方、個性を出すフロウ(歌い方)などたくさん知ることで、数学の公式のように自分のラップを当てはめる基礎を作るためだ。
あとは相手をディする単語たちをノートに書き連ねた。直接的な罵倒から間接的な言い回しなど、ディスりにも様々あって興味深い。さながら英単語を覚えるようにノートが埋まっていった。
塾に早くついたときも、授業が始まるまで私はいつものようにラップを聴きながらノートを取っていた。
「高瀬、授業終わったらさ、二人でご飯行こうよ」
背後からが塾講師の大学生が近づいてきた。しかしラップに夢中になっていた私は大学生に気づかなかった。
「なに見てんの?」
ノートを覗き込む大学生に気づいて、私はイヤホンを取る。
「あ、すみません気づかなくて」
「あぁ、やっぱいいや、なんかごめんね、えへへ……」
そういって、大学生は顔を引きつらせて足早にどこかへ行ってしまった。
改めてノートを見ると、そこにはこれまで聞いたラップから書き出したおびただしいほどの罵詈雑言が書き込まれていた。
夜の公園。
スマートフォンから流れるビートに合わせ、私たちは向き合い身体を揺らす。
「先行は私からいくよ」
ド派手なサングラスをかけたリカはマイクを構え、大きく息を吸う。
Hey Yo!
これから始まる二人のバトル もちろん私が天下取る
初心者だからって容赦はしねえ 先に撮ってろお前の遺影
小節が終わり、リカはマイクを口から離す。
つ、次は私の番だ。え、えっと……。
よ、YO…!
お前のラップ小学生以下 さっさと行けよキッザニア
ままごとするならシルバニア お前の実力足りないや
よし、言えた!
『小学生以下』『キッザニア』『シルバニア』『足りないや』これら全部、韻が踏めている。どうだ! 私が考えに考えた最強のリリック!
喜んでいると、リカはすぐにマイクを握り直す。
実力足りない? そんなことない お前の勘が鈍いだけ!
ここから始まるパーリーナイト 私はお前を狩る騎士(ナイト)
勘が鈍いって?! あ、また私の番だ。
え、えっと……。あれ、考えていたはずなのに頭が真っ白で、なにも出てこない。
「私のラップは……、えーっと……」
そのまま音楽は終わり、バトルは終わった。ラップバトルの勝敗は審査員がつけたり、観客が決めたりするらしい。今はどちらもいないけど、私の負けは明白だ。
リカはサングラスを外し、フーッと息をつく。
「初めてにしてはいいリリックだったよ」
「で、でしょ!?」
「でもアンサーができてない」
「アンサー?」
「どんなにライムを重ねたリリックを歌えても、相手から投げかけられたラップに対応できてなければ観客はお前をラッパーとは認めない。相手のラップに対して即興で返しつつ、その上でライムを刻んだり、スキルを披露できれば自分の実力は本物だという証明になる」
即興って言われても、そんなのできるわけ……。
「あとはどれだけカッコつけるかが鍵」
こうやってさ、とリカは右手をフレミングの法則のように親指、人差し指、中指を突き立て私に向かって差し出す。
「YO! って感じでイケてるぜ感を出しとけば、なんかいい感じだから」
「なにそれ、意味わかんないんだけど……」
ラップを勉強した成果があまり発揮されず落ち込んでいると、リカは私の肩をポンと叩く。実際はすり抜けてしまうので叩いているフリだけど。
「まぁこればっかりは経験だよ」
そう言ってリカはニカっと笑う。きっとリカなりに励ましてくれているのだろう。
「よし、じゃあサイファーに行こう」
「ん? サイファーって?」
「いいからいいから!」
そう言ってリカはぬるんっと私の身体へと入り込む。
『ちょ、ちょっと!?』
「おぉ、私が乗っ取っても心の中で喋れるようになったんだね。乗っ取りに慣れたからかな」
こんなことに慣れたくなかったが、ビートの乗り方を身体で覚えるために何度かリカに乗っ取られていた。リカは私の身体を操り、拳を何度か開いては閉じる。
「だけど身体の自由は私のものだ!」
『いやだ! いやだぁ!!』
私は心の中で叫びながら、私の身体は勢いよく走り出す。