「波留さんも亜希ちゃんも、新条の姉妹とは思えないくらい綺麗な顔立ちをしていたな」
「まあ、身内贔屓で見ても二人はモテるからね」
「マスター、一点だけ修正させてください。奈都ちゃんだって整った顔をしていて、可愛いじゃないですか。ねえ奈都ちゃん、わたしは奈都ちゃんの顔……ううん、全部が大好きだよ?」
麗のアプローチを乾いた笑いでかわしつつ、奈都は時計に目をやった。
時刻は十九時、里莉と麗は奈都の部屋で駄弁っていた。適度に散らかっている部屋の中で、里莉は勉強机の椅子、麗はベッドの上に腰掛けている。
この部屋の主人である奈都は絨毯の上に直接座りながら、「どうしても二人に話したいことがあるから奈都ちゃんの部屋に行きたい」と色気たっぷりに口にした麗に視線を送った。
麗は一体、何を話すつもりなのだろうか。里莉が隠している本当の目的について追及するつもりだろうか。とにかく、あまり遅くならないうちに帰ってもらいたいなと小さく溜息を零すと、
「……マスター……わたしは、もうすぐ壊れるのでしょうか?」
麗は思いもよらなかった単語を口にした。全力で叩き込まれたボディーブローのような威力を持っていて、一撃で奈都の胸を苦しくさせた。
質問を受けた張本人である里莉の様子を窺ってみると、彼女は無言で麗を見つめるだけだった。
「わたしは機械だから、自分のことはわかります。マスターならとっくに気がついているかと存じますが、お優しいからわたしに言わないでいてくれているのかと。ですが、正直に教えてください。わたしは、マスターの口から聞きたいのです」
思い返してみると、突然手首がもげたり会話がおかしかったりと、そう判断できる要素はあったとは思うのだが、奈都は自分でも驚くほど動揺していた。
「くだらない。お前の勝手な憶測であたしを計ることは許さん。気分を害した。あたしは先に帰る」
「あ、ちょっと有栖川……!」
里莉は大きな音を立てて部屋のドアを開閉し、出て行ってしまった。
部屋に残された奈都と麗を、気まずい空気が包んでいた。麗を修理する技術など当然持ち合わせていないことはおろか、かけるべき優しい言葉すら何一つ浮かんで来ないことを奈都はとても情けなく思った。
「……マスターはいつも嘘をつくの。わたしを作った目的の他にも、奈都ちゃんは徒競走でダンゴムシに負けたことがあるとか、お漏らしが多いから席はいつも廊下側だったとか」
「……それは……人権侵害の類の最低な嘘ですね」
「……それから、わたしは永遠に活動できるとか、一人でも寂しくない、とか……。ねえ、奈都ちゃん。わたしがいなくなって、マスターと好きな女性が結ばれなかったらさ、君がマスターの側にあげてほしいな」
麗は見当違いなことを口にして、奈都を落胆と困惑の海に落とした。
こんな遺言じみた言葉など、聞きたくなんてない。
「それは無理です。私はあいつのこと、好きじゃないですから」
そう言っておけば麗は、奈都と里莉を下手にくっつけようとはしてこないはずだ。
麗が人の感情の機微や言葉の裏、アドリブを読み取れるほど高性能なロボットではないことを承知したうえでの、卑怯な作戦を使った。
「……そっか……。それが嘘なら、嬉しいんだけどな……」
奈都にとって、その言葉を受け止めることは辛かった。
「まあ、身内贔屓で見ても二人はモテるからね」
「マスター、一点だけ修正させてください。奈都ちゃんだって整った顔をしていて、可愛いじゃないですか。ねえ奈都ちゃん、わたしは奈都ちゃんの顔……ううん、全部が大好きだよ?」
麗のアプローチを乾いた笑いでかわしつつ、奈都は時計に目をやった。
時刻は十九時、里莉と麗は奈都の部屋で駄弁っていた。適度に散らかっている部屋の中で、里莉は勉強机の椅子、麗はベッドの上に腰掛けている。
この部屋の主人である奈都は絨毯の上に直接座りながら、「どうしても二人に話したいことがあるから奈都ちゃんの部屋に行きたい」と色気たっぷりに口にした麗に視線を送った。
麗は一体、何を話すつもりなのだろうか。里莉が隠している本当の目的について追及するつもりだろうか。とにかく、あまり遅くならないうちに帰ってもらいたいなと小さく溜息を零すと、
「……マスター……わたしは、もうすぐ壊れるのでしょうか?」
麗は思いもよらなかった単語を口にした。全力で叩き込まれたボディーブローのような威力を持っていて、一撃で奈都の胸を苦しくさせた。
質問を受けた張本人である里莉の様子を窺ってみると、彼女は無言で麗を見つめるだけだった。
「わたしは機械だから、自分のことはわかります。マスターならとっくに気がついているかと存じますが、お優しいからわたしに言わないでいてくれているのかと。ですが、正直に教えてください。わたしは、マスターの口から聞きたいのです」
思い返してみると、突然手首がもげたり会話がおかしかったりと、そう判断できる要素はあったとは思うのだが、奈都は自分でも驚くほど動揺していた。
「くだらない。お前の勝手な憶測であたしを計ることは許さん。気分を害した。あたしは先に帰る」
「あ、ちょっと有栖川……!」
里莉は大きな音を立てて部屋のドアを開閉し、出て行ってしまった。
部屋に残された奈都と麗を、気まずい空気が包んでいた。麗を修理する技術など当然持ち合わせていないことはおろか、かけるべき優しい言葉すら何一つ浮かんで来ないことを奈都はとても情けなく思った。
「……マスターはいつも嘘をつくの。わたしを作った目的の他にも、奈都ちゃんは徒競走でダンゴムシに負けたことがあるとか、お漏らしが多いから席はいつも廊下側だったとか」
「……それは……人権侵害の類の最低な嘘ですね」
「……それから、わたしは永遠に活動できるとか、一人でも寂しくない、とか……。ねえ、奈都ちゃん。わたしがいなくなって、マスターと好きな女性が結ばれなかったらさ、君がマスターの側にあげてほしいな」
麗は見当違いなことを口にして、奈都を落胆と困惑の海に落とした。
こんな遺言じみた言葉など、聞きたくなんてない。
「それは無理です。私はあいつのこと、好きじゃないですから」
そう言っておけば麗は、奈都と里莉を下手にくっつけようとはしてこないはずだ。
麗が人の感情の機微や言葉の裏、アドリブを読み取れるほど高性能なロボットではないことを承知したうえでの、卑怯な作戦を使った。
「……そっか……。それが嘘なら、嬉しいんだけどな……」
奈都にとって、その言葉を受け止めることは辛かった。