お披露目の回は、イチさんの万全の準備のおかげで滞りなく進んだ。
 とはいえ、私がしていたのはあらかじめ言われていた通り、佳月様の横で微笑んでいるくらいなものだ。

 イチさんが手配してくれたお酒と料理を楽しんでもらい、その合間に、誰からともなく音楽に合わせて踊り出す。中には持参した楽器で演奏に参加する神様もいた。

 その光景は、さながら昔話の中の世界のようで、見ているだけでも楽しい気持ちにしてくれた。

 最後のひとりを見送り、初夜に向けて体を清める。
 夜着を着せ終えて、イチさんは『それでは、私はこれからちょぉっと出かけてまいりますね。ええ、ええ。心おきなくお過ごしください』と、すこぶるよい笑みを浮かべてすっと消えてしまった。

「き、緊張する」

 佳月様を長く待たせるわけにはいかず、震える手で自室の戸を開ける。
 一歩を踏み出そうとしたところで、不意にわふりとなにかが私を包み込んだ。

「え?」
「綾目」
「佳月様?」

 戸のすぐ外にいたのは、私の伴侶となった佳月様だった。

「待ちきれなくて、迎えに来てしまった」

 蕩けるような甘い笑みを向けられただけで、体に力が入らなくなる。思わず彼の腕にしがみついた私を、佳月様が軽々と抱き上げた。

「あっ」

 横抱きにされ、落ちないようにとっさに彼の首に腕を巻きつける。必死になる私を、佳月様がくすりと笑った。

「今日の綾目は一段と綺麗で、お披露目の間も目を逸らせなかった」
「佳月様」
「綾目はもう私のものだ」

 彼らしくなく、急くような足取りで部屋に向かう。そうしてたどり着いた先で、布団の上にそっと横たえられた。

「綾目、私のものになってくれるか?」
「は、はい」

 終始優しく触れる佳月様に、恐怖は微塵も感じなかった。

「綾目、愛してる」
「私も、佳月様を愛しています」

 幸せな温もりに包まれながら、そっと意識を手放していった。