「希道様」
恐る恐る、それでも聞こえる程度の声量で呼びかける。
顔を上げた希道様は、訝しげに私を見た。その視線に怯みそうになるが、それでもこれだけは伝えておきたい。
「私が佳月様を心から慕っているのは、どん底にいた自分を救ってくださったからです。佳月様がいなければ、私を取り巻く境遇はますます悲惨なものになっていたでしょう。そこまでしてくれたというのに、この方は私になんの見返りも求めませんでした。その優しさに、私は弾かれたんです」
ともすると、一方通行な気持ちになっていたかもしれない。けれど、それでもこの人に尽くしたいと、彼の優しさが私にそう思わせた。
目にしただけでも、希道様の振舞は横暴で慕われるとは程遠い。いつもこんな調子でいるのなら、信頼関係など築けそうにない。
神様に対するにはずいぶん失礼な指摘だったかもしれないが、少しでも私の真意が伝わってほしい。
「……わるかったな」
まさかこの人から謝罪の言葉が飛び出すとは思っていなかった。
「二度と綾目に手を出さないと、約束するか?」
「ああ。俺には、綾目の心を振り向かせられないとわかったからな」
ようやく安堵して、体から力が抜ける。
「綾目は佳月しか見えていない。悔しいが認める。それに、どうせ今夜お前たちが契りを交わせば手出しなどできなくなるだろ」
自分の気持ちを他者から言い当てられるのは、なかなか恥ずかしい。しかも、初夜まで仄めかしてくる。
「そうだな。綾目には詳しく話していなかったが、私と契れば人でないものに体が作り替わるだけでなく、その身には常に私の力を帯びることになる。それが綾目を害そうとする者から守護してくれる」
「嬉しい。そうなれたら、いつでも佳月様の存在を身近に感じられますね」
そんな状況を思い浮かべただけで、つい口もとが緩む。腕の中から彼を見上げると、佳月様も優しい笑みを返してくれた。
「ふん。俺の前で惚気てくれるな。もういいだろ、佳月。そろそろ解いてくれよ」
「いいだろう。これに懲りたら、二度と妙な気を起こすでないぞ」
「ああ」
拘束を解かれた希道様は、「幸せにな」とだけ残して姿を消した。
恐る恐る、それでも聞こえる程度の声量で呼びかける。
顔を上げた希道様は、訝しげに私を見た。その視線に怯みそうになるが、それでもこれだけは伝えておきたい。
「私が佳月様を心から慕っているのは、どん底にいた自分を救ってくださったからです。佳月様がいなければ、私を取り巻く境遇はますます悲惨なものになっていたでしょう。そこまでしてくれたというのに、この方は私になんの見返りも求めませんでした。その優しさに、私は弾かれたんです」
ともすると、一方通行な気持ちになっていたかもしれない。けれど、それでもこの人に尽くしたいと、彼の優しさが私にそう思わせた。
目にしただけでも、希道様の振舞は横暴で慕われるとは程遠い。いつもこんな調子でいるのなら、信頼関係など築けそうにない。
神様に対するにはずいぶん失礼な指摘だったかもしれないが、少しでも私の真意が伝わってほしい。
「……わるかったな」
まさかこの人から謝罪の言葉が飛び出すとは思っていなかった。
「二度と綾目に手を出さないと、約束するか?」
「ああ。俺には、綾目の心を振り向かせられないとわかったからな」
ようやく安堵して、体から力が抜ける。
「綾目は佳月しか見えていない。悔しいが認める。それに、どうせ今夜お前たちが契りを交わせば手出しなどできなくなるだろ」
自分の気持ちを他者から言い当てられるのは、なかなか恥ずかしい。しかも、初夜まで仄めかしてくる。
「そうだな。綾目には詳しく話していなかったが、私と契れば人でないものに体が作り替わるだけでなく、その身には常に私の力を帯びることになる。それが綾目を害そうとする者から守護してくれる」
「嬉しい。そうなれたら、いつでも佳月様の存在を身近に感じられますね」
そんな状況を思い浮かべただけで、つい口もとが緩む。腕の中から彼を見上げると、佳月様も優しい笑みを返してくれた。
「ふん。俺の前で惚気てくれるな。もういいだろ、佳月。そろそろ解いてくれよ」
「いいだろう。これに懲りたら、二度と妙な気を起こすでないぞ」
「ああ」
拘束を解かれた希道様は、「幸せにな」とだけ残して姿を消した。