それから一週間が経ち、いよいよお披露目の日になった。
 イチさんの説明によると、佳月様の力で庭を人の集まれる芝の広場に変えるらしい。そこにたくさんの茣蓙を強いて招待客の席を作り、酒や料理を振る舞うという。

 準備はすべてイチさんが取り仕切っているため、細かなところまではわからない。それに、会場を見るのも当日のお楽しみだと言われている。

「本日は、たくさんのお客様が来てくださるんですよ」

 招待したのは神様やその眷属だと聞いているが、どんなことになるのか想像もつかない。

「蛇神様に歳神様。それから蛭子神様に……」

 その一部をイチさんが教えてくれたが、とても覚えられそうにない。でも、佳月様の妻になるのだから、ゆくゆくはきちんと頭に入れておかなければならないだろう。

 それらすべての神様は、佳月様と同様に、外見は人間と変わりないという。

「それから、希道様もいらっしゃいます」

 つい眉間にしわが寄る。いつも明るい表情のイチさんですら、不快そうに鼻にしわを寄せた。

 私に伴侶になるように迫った希道様が、この結婚を祝福してくれるようには思えない。

「ほかの神様方がいらっしゃるので、変なことはなさらないでしょうけど。念のため、希道様には注意しておきますからね」

 不安は完全には拭えないが、招待しないわけにもいかないのだろう。

「さあさあ。御髪も整いましたよ」

 お化粧も、イチさんがしてくれた。鏡の前に立ち、自身の姿を見つめる。
 生贄にされたときとは違い、ずいぶん華やかに仕上げてもらえた。天国の両親も、きっと今日の日を喜んでくれているだろう。

「綾目様。時間まで、このままお部屋でお休みになっていてくださいね」
「はい」

 イチさんが、足早に次の準備に向かう。これまでもずいぶん忙しそうにしていた彼女だが、今日は一段と大忙しだ。
 私はお目にかかっていないが、どうやらイチさんの眷属仲間も手伝ってくれているらしい。こういう準備は、仲間内でもちつもたれつだという。まるで人間のようなやりとりだ。

 庭から、にぎやかな音が聞こえはじめた。楽器を得意とする眷属らが、演奏を担当してくれている。聞いたことのないメロディーだが、どこか懐かしい。目を閉じて聴きながら、昂った気持ちを落ち着かせようと試みる。

「結婚かあ」

 両親が亡くなる前は、友人らと誰がかっこいいとか好きな芸能人について話をよくしていた。実際に異性と交際をしている子も数人いたものの、私はまだそんな気になれず、結婚は想像すらしたことがなかった。

 佳月様との結婚は、とんとん拍子に話が進んできたが、後悔は微塵もない。神様の世界に仲間入りするのは恐れ多くて気後れしそうになるが、彼に嫁ぐこと自体には幸せに感じている。

 もともと、佳月様の存在を守るためならなんだってする気でいた。それこそ、梶原家でどんな目に遭わされても耐える決意もしたし、たとえ佳月様に女として求められていなくとも、彼が望んでくれるのなら契りを交わす覚悟もしていた。
 それがまさか、心を通わせられるなど思ってもみなかった。