「もし私が、ほかの神様へ差し出されていたら、違ったんですか?」
「そうだな。〝生〟あるまま納められたものは、私とのつながりが生じる。それほど大きな意味のあるものではないが、少なくとも私は、綾目の言葉の真偽が明確にわかる」
「つまり、私が嘘を言っても、佳月様にはお見通しなんですね?」
ある意味、プライベートを侵害されかねない事態かもしれない。
「そうだ」
どこかすまなそうな佳月様に、なにも問題ないと手を小さく振って否定した。
「ちょうどいいです!」
若干大きな声になった私を、佳月様がギョッとして見る。
「だって、私の本心が伝わっているってことですよね? 私が佳月様を優しい神様だと思っていて、ずっとお傍にいたいと望んでいるのも嘘偽りのない思いだと、無条件で信じてもらえるなんて」
「あ、ああ。綾目の気持ちは、十分に伝わっている。そのまっすぐな気持ちがわかるからこそ、ますます綾目を突き放せなくなってしまった。人間は、心変わりする生き物だと知っているはずなのにな」
前のめりになる私に、佳月様が身を引いた。
彼が味わってきた苦々しい経験が、影を落としているのだろう。心に抱えた大きな傷が、彼を頑なにさせた。
「それどころか、最近は綾目のくれる言葉が私を幸せにしてくれる」
「本当ですか?」
疑うわけではないものの、つい確認したくなる。それに対して佳月様は「ああ」とうなずき返してくれた。
「綾目。どうやら私は、綾目がかわいくて仕方がないらしい」
「えっ⁉」
話の方向性が急に変わり、驚きで目を見開いた。彼らしくない発言に、途端にうろたえる。
「私自身が存在し続けるために言うのではない。大切な綾目と、もうしばらく同じときを生きたい。そんな私の身勝手を、受け入れてはくれないか」
身勝手もなにも、私はそれを願ってきた。
佳月様が、私の手をそっと掬い上げる。そうして私を熱く見つめたまま続けた。
「綾目、私はお前を愛している。私と一緒のときを、過ごしてはくれないだろうか」
「っ……」
まさか、彼がそんなふうに思ってくれているなんて気づきもしなかった。
私の好意は、この先もずっと一方通行のものなのだと決めつけていた。私たちの間には大きな身分差があるし、そもそも種族も違う。人と神とが心を通わすなんてあり得なないと、ひとりで苦しんできた。
「わ、私、佳月様が、好きです」
緊張と嬉しさに涙がこみ上げて、みっともないくらい声が震える。それでも、彼はこれが私の本心だとわかってくれる。
「でも、それを伝えたら、佳月様の迷惑になるんじゃないかって、ずっと怖くて」
「迷惑なものか」
私の手を優しく引き、佳月様の胸もとに抱き寄せられる。
「ありがとう、綾目。こんな私を好いてくれて」
佳月様は〝こんな〟なんていう存在ではない。それを否定したくて、抱きしめられたまま首を横に振る。
「佳月様は、私の唯一の存在です」
涙が次々あふれて止まらない。
「ただの人間でしかない私を大切にしてくださって、ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします」
ぐしゃぐしゃになっているだろう顔は見せられなくて、彼の胸もとにぐっと押しつける。同時に、私の背に回されていた佳月様の腕にさらに力がこもった。
「ああ。これからは、ずっと一緒だ」
未来を楽しみに思うのは、ずいぶん久しぶりだ。佳月様の腕の中で、明るいこの先を思い描きながらそっと目を閉じた。
「そうだな。〝生〟あるまま納められたものは、私とのつながりが生じる。それほど大きな意味のあるものではないが、少なくとも私は、綾目の言葉の真偽が明確にわかる」
「つまり、私が嘘を言っても、佳月様にはお見通しなんですね?」
ある意味、プライベートを侵害されかねない事態かもしれない。
「そうだ」
どこかすまなそうな佳月様に、なにも問題ないと手を小さく振って否定した。
「ちょうどいいです!」
若干大きな声になった私を、佳月様がギョッとして見る。
「だって、私の本心が伝わっているってことですよね? 私が佳月様を優しい神様だと思っていて、ずっとお傍にいたいと望んでいるのも嘘偽りのない思いだと、無条件で信じてもらえるなんて」
「あ、ああ。綾目の気持ちは、十分に伝わっている。そのまっすぐな気持ちがわかるからこそ、ますます綾目を突き放せなくなってしまった。人間は、心変わりする生き物だと知っているはずなのにな」
前のめりになる私に、佳月様が身を引いた。
彼が味わってきた苦々しい経験が、影を落としているのだろう。心に抱えた大きな傷が、彼を頑なにさせた。
「それどころか、最近は綾目のくれる言葉が私を幸せにしてくれる」
「本当ですか?」
疑うわけではないものの、つい確認したくなる。それに対して佳月様は「ああ」とうなずき返してくれた。
「綾目。どうやら私は、綾目がかわいくて仕方がないらしい」
「えっ⁉」
話の方向性が急に変わり、驚きで目を見開いた。彼らしくない発言に、途端にうろたえる。
「私自身が存在し続けるために言うのではない。大切な綾目と、もうしばらく同じときを生きたい。そんな私の身勝手を、受け入れてはくれないか」
身勝手もなにも、私はそれを願ってきた。
佳月様が、私の手をそっと掬い上げる。そうして私を熱く見つめたまま続けた。
「綾目、私はお前を愛している。私と一緒のときを、過ごしてはくれないだろうか」
「っ……」
まさか、彼がそんなふうに思ってくれているなんて気づきもしなかった。
私の好意は、この先もずっと一方通行のものなのだと決めつけていた。私たちの間には大きな身分差があるし、そもそも種族も違う。人と神とが心を通わすなんてあり得なないと、ひとりで苦しんできた。
「わ、私、佳月様が、好きです」
緊張と嬉しさに涙がこみ上げて、みっともないくらい声が震える。それでも、彼はこれが私の本心だとわかってくれる。
「でも、それを伝えたら、佳月様の迷惑になるんじゃないかって、ずっと怖くて」
「迷惑なものか」
私の手を優しく引き、佳月様の胸もとに抱き寄せられる。
「ありがとう、綾目。こんな私を好いてくれて」
佳月様は〝こんな〟なんていう存在ではない。それを否定したくて、抱きしめられたまま首を横に振る。
「佳月様は、私の唯一の存在です」
涙が次々あふれて止まらない。
「ただの人間でしかない私を大切にしてくださって、ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします」
ぐしゃぐしゃになっているだろう顔は見せられなくて、彼の胸もとにぐっと押しつける。同時に、私の背に回されていた佳月様の腕にさらに力がこもった。
「ああ。これからは、ずっと一緒だ」
未来を楽しみに思うのは、ずいぶん久しぶりだ。佳月様の腕の中で、明るいこの先を思い描きながらそっと目を閉じた。