「何度でも言います。私は、この先もずっと佳月様のお傍にいたいです」

 彼に受け入れてもらうために私にできるのは、同じ言葉を繰り返すのみ。

「私は、かつてあなたを裏切った村人たちと同じ人間です。ですから、すぐに信じてもらえないのは承知しています。それでも、いつか絶対に佳月様の信頼たる人間になれるよう、ずっとお傍で伝え続けさせてください」

「綾目の優しさの中には、凛とした強さがある。それを、十分に見せてもらってきたのだ。それなりに信頼もしている」

 決して、絶対的な信頼を勝ち取っているわけではない。けれど、私の気持ちが少しでも伝わっていたようで、嬉しさに胸が熱くなった。

「だから、その……」

 言い淀んだ佳月様は、片手で口もとを覆って、ふいっと横を向いてしまった。その耳もとは、ほんのり朱色に染まっている。

「佳月様?」
「いや。こんな条件のようにして、それを伝えるのは間違っているな」

 聞き取れないような小声でつぶやいた佳月様は、再び私に向き直った。

「綾目が私に助けられたというように、私もまた、綾目の存在に救われた。これまで私は、もう自分という存在がなくなってもかまわないと思ってきた。だが、最近はもう少しだけ足掻いてみたいと思うようになった」

 佳様月のその心変わりに、期待が膨らむ。

「自分がいなくなるのを悲しんでくれる存在がいるというのは、いいものだな。イチもずっとそう伝え続けてくれてきたが、あれは私と一蓮托生の存在だ。あやつの言葉は、すっかり聞き流してきてしまった」

 それをイチさん本人が知ったら、きっと糸目を吊り上げて猛烈に抗議するだろう。それほど、彼女も佳月様を慕っている。

「だが、出会って間もないはずの綾目の言葉は、私の心を揺さぶり続けてきた。最初はイチも厄介なものを拾ったものだと、嘆息していたはずなのにな」

 それほど素直に打ち明けれては、落ち込みそうにもなる。でも、彼の過去を知った今は、そう捉えるのも仕方がないのだろうと理解できる。

「たしかに、綾目の境遇は幸せなものではなかった。いくらあの神社を毎日参ってくれているとはいえ、龍神である私は、ひとりの人間に肩入れするわけにはいかない。世の中、それ以上に悲惨な思いをしている人間もたくさんいるのだ。綾目が特別だというわけではない。だが、なにの因果か、綾目は私を祀る神社に生贄として差し出されてしまった。そのせいで、突き放せなくなってしまった」