「綾目のその考えを、私は受け入れられない」

 それでも相手は神様だ。私の浅はかな考えなど、簡単に読まれてしまったようだ。

「そうですよ、そうですよ。綾目様。早まった行動は、さすがに私も許しませんよ」

 身を汚すかもしれないという覚悟に羞恥を覚えながら、「それでも」と訴える。

「佳月様がいなくなるなんて……」

 一番つらい思いをしてきたのは佳月様だ。主の苦しむさまを長年見てきたイチさんだって、このまま彼が消えてしまうのを受け入れられるとは思えない。

「私は、佳月様にずっといてほしいんです」

 叫ぶように言い切り、溢れた涙を手で乱雑にぬぐう。

「そのためなら、私はなんだってする覚悟です」

 イチさんがついていたとはいえ、佳月様は根本的に孤独の中にいたはず。そのまま最期を迎えるなんて、こんな優しい彼にどうしてそんな仕打ちができようか。私はそれを見過ごせない。

「綾目様……」

 繰り返し拭いても、涙があふれてしまう。視界が霞み、ふたりの顔ももう見られない。

「ええ、ええ。私は、あなた様が本当に優しいお方だと知っていますよ。けれど、その決断は間違っています。綾目様の犠牲の上で自身の存在が守られても、佳月様は苦しまれるだけです」

「でも」

 イチさんの指摘が、的を射ているとわかっている。それでも、私にも譲れないものがある。

「佳月様がいなくなっては意味がありません。イチさんだって、そう思っているでしょ? 佳月様にずっといてほしいって」

 どうしてわかってくれないのか、なじるような口調になってしまう。

「ええ、ええ。その通りでございます」

 イチさんの声音に、辛さが滲む。

「綾目様にそこまでの覚悟がおありなら、ここは佳月様にも決断をしてもらうしかありませんね。ええ、ええ。私はそう思います」

 どういう意味かと、首を傾げた。

「イチ。それはだめだ」
「ですが、これほどまで綾目様に思われているんですよ」

 ますます理解が追いつかず、ふたりのやりとりを見ているうちに、冷静さを取り戻していく。

「佳月様」

 イチさんが、佳月様を急かす。それに対して佳月様は、かたくなに首を縦には振らない。