もしかして、攻撃的な神様なのだろうか。イチさんの物言いに身の危険を感じ、表情が曇る。

「あらあら。不安にさせてしまいましたねぇ。ええ、ええ。私も佳月様もおりますから、大丈夫ですよ。希道様は、なんというか、大変いたずら好きのお方でしてね。佳月様を困らせることを生き甲斐にしている節がおありで」

 それはなんとも厄介だ。〝神〟という存在だからといって、必ずしも佳月様のように善良な存在ではないらしい。

「では、私がお茶をお持ちするので、綾目様にはプリンをお願いしましょう」
「わかりました」

 少々の不安はあるが、彼女の言う通り、ひとりになるよりはましだろう。

「ああ、おいでのようです」

 気を取り直して準備を進めていると、気配でいろいろと察知したのか、イチさんがため息交じりにつぶやいた。

「綾目様。行きましょうか」
「はい」

 重い足取りのイチさんに続いて、佳月様の部屋を目指す。通常なら、彼女はノックもそこそこに部屋の戸を開けてしまうが、今日は一度立ち止まって深呼吸までしてみせた。

「佳月様。お茶をお持ちしました」

 よほど気を張っているのか、口調もどこか堅苦しい。私の緊張もますます高まり、お盆を持つ手が震えないように必死にこらえていた。

「ああ。ありがとう」

 嫌な相手だと聞いたばかりで心配だったが、佳月様の声音はいつも通りのようでほっとする。

「失礼しますね。希道様。ようこそおいでなさいました」

 頭を下げるイチさんの背後で、私も同じようにする。一瞬チラリと見えた希道様の顔は、物静かな印象の佳月様とは対照的で、やる気に満ちていた。

「ああ、イチか。それと、佳月。その娘の名はなんだ?」
「……綾目だ」
「ふうん」

 ゆっくりと頭を上げて、遠慮がちに希道様を見る。

 佳月様と同じ金色の瞳に白銀の髪をした希道様は、同じ龍神と聞いているがまったく雰囲気が違う。その髪は短髪に刈られており、肌は小麦色に焼けている。ふたりとも長身だが、細身の佳月に対して希道様は鍛えているようながっちりとした体つきが、服の上からでも見てとれる。

 希道様は私に対して興味を持ったようで、瞳をらんらんと輝かせて凝視してくる。

「珍しいな。佳月が女を囲うなんて。しかも、人間のな」

 からかいの目を向ける希道様を、佳月様は動じず見つめ返した。

〝女を囲う〟とは、つまり、神様でも性的な意味で女性を侍らすことがあるというのだろうか。そういう目で見れば、希道様はギラギラと生命力にあふれ、いかにも好色そうに見える。

 佳月様にも、これまでそういう相手がいたのだろうかと想像して、ツキッと胸が痛んだ。