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「どうして……あの村の人間はなぜ、すべてを他人のせいにするのだ」

 下沢村を見なくなったのは、もうずいぶん前からだ。ただ、いくらこちらか心を閉ざしてしいても、村人の感情が高ぶりすぎると勝手に見えてしまう。

 かつて私が愛した下沢村は、もうどこにもない。
 村人は身勝手な自身を顧みず、攻撃する対象を探してばかりいる。そこにはもちろん、龍神である私も含まれていた。

「なぜ誰も、綾目の身を案じないのか」

 誰かひとりに肩入れするのはよくないと、わかってはいる。けれど、あまりにもあの娘が不憫でならない。

「あんなにも、心優しい娘だというのに」

 彼女がここにいたいと願うのは、帰る場所がないという不安からだろう。私が許可をしたのだから自由に過ごせばいいのに、あの娘は恩を返したいと言ってイチに仕事をせがんでいた。

 人間と関わるは煩わしい。心が通じたと思ったのは束の間で、彼らは徐々に私を忘れていく。挙句、憎しみすら向けられる。

「なぜ綾目は、理不尽な仕打ちを受け入れてしまうのか。どうし怒りの感情を抱かないのか」

 ひどい仕打ちを受けてもなお、綾目は恨みとは無縁でいた。彼女の無垢な心が私を揺さぶる。

 けれどそれも、怒りに染まる私を見るまでだろう。私が自身とは違うものだとわかれば、あの娘もきっと離れていくに違いない。

 そうなってほしいと願いながら、それでもあの娘ならば受け入れてしまうのではないかといかという期待を抱いてしまう。

「綾目」

 その名を口にした途端に、自身の中の怒りがわずかに静まる。
 もしあの娘が、今の私を見てもなおここにいたいというのなら、自身が存在し続ける間は守ってやろう。