ここの人たちは、新しいことには常に警戒心をあらわにし、つまはじきにしたがる。私も嫁いできたばかりの頃は、疎外感を感じてばかりだった。

 親切そうな顔をして近づいてくる女性らも、それは見かけにすぎない。『これだから他所から来た人は……』『この村では昔からこうしているの』と、私のすること成すことすべてを否定する。なんとか馴染めるように努力をしても、結局、本当に受け入れられはしない。

 そこで夫が守ってくれるのならまだしも、見合いで結婚したあの人に、そこまでの気概はなかった。

「開けるのは、皆が集まってからにしようかのう」

 昭三の提案に、居合わせた数人が同意した。

 時間になる頃には、昨晩同様に大勢の村人が集まっていた。待っている間は数人ずつ集まって噂話に花を咲かせているのが大多数で、社殿にいる綾目を気にかける者などひとりもいない。わざとそうしているのか、それとも本当に気にしていないのかはわからない。

 寒空の下で放置された綾目は、もしかしたらひどい風邪を引くかもしれない。それくらいは仕方がないと考える私も、ずいぶんこの村に染まってきたのだろうか。

「時間になったな」

 昭三の掛け声に、辺りが静かになる。

「じゃあ、開けるか」

 全員の視線が、社殿に向けられた。開けるのは、昨夜、綾目の準備を手伝った数人の女性らだ。彼女たちについて、私も社殿に近づいた。

「静かね」

 誰かが発した不安げな声に、こくりとうなずく。あまりの静けさに、綾目はどうなってしまったのか、ようやくこの人たちに不安が過ったのかもしれない。

「開けるわよ」

 よそ者でしかない私は、一番後ろでそっとうかがっていた。いつも通り、彼女らの言葉に首を振るのみで、会話には極力加わらない。

「あれ? いないわ」
「本当。どうしたのかしら」

 扉を全開にして、陽の光が差し込むように社殿の正面を空ける。ざっと見回したところ、たしかに綾目の姿は見当たらなかった。

「どういうこと?」

 首を傾げた彼女たちは、事実を告げようと集まった人らの方を向く。

「誰も、いないんだけど」

 村人らの間に、ざわめきが広がる。

「なんだと」

 自らの目で確認しようと昭三が動いたのに反応して、勝吾をはじめ数人の男らがこちらに近づいてくる。道を開けて、彼らにも社殿の中を確かめてもらった。

「どこに行ったんだ」

 社殿の外も一周したが、なにも見つけられなかった。