昼少し前になり、再び台所へやってきた。ゼリーもいい具合に仕上がっており、これなら自信を持って出せそうだと、緊張する自身を勇気づける。

「綾目様。佳月様は、私が外へご案内しますからね。庭の隅に茣蓙を出しておきましたので、綾目様のお気に入りの場所に敷いてもらっていいですか?」
「はい」

 お弁当を手に、外に出る。
 ここの庭はとにかく素朴で、どこを切り取っても素敵だ。辺りを見回しながら、もっともよい場所を探す。

 宮は、庭に対してこの字型に建っている。佳月様の部屋からも、私の部屋とは違う角度で庭を眺められる。おそらく彼も、部屋からこの景色を楽しんでいるだろう。
 ならば、いつもは室内から見ているところを、逆に今日は部屋の方を眺める位置に座ってはどうか。

 芝のような草の生えている一角に、三人とも宮が見えるように、半円状に茣蓙を敷く。右端を自分の場所に決めて、お弁当を配置しながら座り込んだ。

「綾目様、綾目様。お待たせしました」

 準備を終えると同時に、イチさんの明るい声が聞こえてきた。いつも以上に弾む口調から、彼女も楽しみにしてくれているのだと伝わってくる。

 イチさんの後ろから、佳月様がゆったりとした足取りでついてくる。陽の光を浴びた彼の白銀の髪は煌びやかさをさらに増し、その美しさに一瞬目を奪われてしまう。
 視線はいつものように鋭いが、腰まで届く毛先は、それとは裏腹に楽しげに揺れている。

「ささ、佳月様。そちらへどうぞ」

 真ん中の茣蓙に佳月様を促しつつ、イチさんはその向こうに座る。こういう席順になるだろうとわかっていたが、イチさんを介さない位置関係に、無意識のうちに背筋が伸びた。

「あ、あの、佳月様」

 意を決して声をかけると、庭を眺めていた佳月様の視線がゆっくりとこちらを向く。金の瞳に不機嫌さは見られないことにほっとする。それでも迷惑でなかったかという不安は、完全にはぬぐえない。

「今日は、その、来てくださってありがとうございます」
「ああ」
「イチさんと、お昼ご飯を作ったので、ぜひ食べていただきたくて」

 傍に置いていたお重を、そっと引き寄せる。

「佳月様。綾目様は、本当にお料理が上手なんですよ。ええ、ええ。それ以外の家事も得意でしてね。ほんの数日で、私もたくさんのことを教えてもらいましたよ」
「そうか」

 イチさんに教えるなんて恐れ多いと、首を小さく左右に振る。