「おにぎりはいいですねぇ。ええ、ええ、もちろんパンや麺類もいただきますよ。けれど、私はこれが一番好きですねぇ」

 隣で作業する私の手もとをのぞきながら、イチさんがしみじみと言う。

「私もお米が一番好きです。どちらかというと、母が作る料理は和食が多かったせいですかね」
「そうですか、そうですか。佳月様も、きっと喜んでくださいますよ」
「そうだといいんですが」

 正直、自信がない。

 彼のことをもっと知りたいのは変らないが、ひと晩明けて、突然こんなふうに誘って気をわるくされないかと弱気な自分が顔を出す。

「あらあら、心配には及びませんよ。ええ、ええ、昨日のうちに佳月様に声をかけておきましたら、快くうなずいてくださいましたからねぇ」

 ふたりの関係性を考えれば、押しの強いイチさんにうなずかざるを得なかったのかもしれないと想像できる。

「そうだ、イチさん。庭に出るなら、なにか敷物があるといいんですけど」
「おまかせください。使っていない茣蓙《ござ》がいくつかありますので。ここの準備が済みましたら、出しておきますからね」
「お願いします」

 鮭の入ったおにぎりに、梅干しとおかかも用意した。イチさんが用意してくれた重箱に、おかずとともに詰めていく。

「ゼリーは、もうしばらく冷やしておきます」
「ええ、ええ。そうしましょう。出来上がるのが待ち遠しいですねぇ」

 少々面倒な後片づけも、彼女とおしゃべりしていれば苦にならず、あっという間に終わった。ここではなにをしていても楽しくて、少し前の沈んだ日々がずいぶん遠い日のように思えてくる。

「さあさあ、少し休憩しましょうかね」

 ふたりで作ったお弁当に、佳月様はどんな反応をするだろうか。楽しんでくれると願いながら、自室に戻って体を休めた。