「イチさん、佳月様は喜んでくれているのでしょうか。その、用意したものはすべて食べてくれているようですが……。押しつけるような迷惑になっていないといいのですが」

 彼女の半歩後ろを歩きながら、正直な気持ちを明かす。
 ああして強引に運ばれてこれば、佳月様としても断りづらそうだ。それに、それまでしていたことを中断されられて、困っているかもしれない。

「でしたら、今度は一緒に食べるようにお誘いしましょうか」
「それは……」
「それがいいですね!」

 イチさんがパチリと手を叩く。

「綾目様だって、ひとりで食べていてもつまらないでしょう? だめですねぇ。食事の習慣がないせいで、配慮に欠けておりましたね。ええ、ええ。せっかく一緒に暮らしているのですからねぇ」

 なにも、そこまでは求めていない。ただ、私のしていることが佳月様の負担になっていなければいいがと心配になっただけだ。
 でも、イチさんの言う通り、ひとりで食事をするのは味気ないのもわかる。

 それに、さっきの『ありがとう』という反応が、どうにも気になる。彼が見た目通り冷たい人でないのは、そのひと言だけでも十分に伝わってきた。
 
 もっと、佳月様のことを知りたい。
 佳月様が拒否をするなら無理に近づく気はないけれど、そうでないのなら、わずかな時間でも交流できたらいいのにと思っている。

「あの、もしよろしければ、庭に出て三人でお茶をする時間を設けるとか……」

 大胆な提案だと思いつつ、うかがうように口にした。ピクニックのような感覚で外に出てしまった方が、私としてもそこまでかまえずにいられそうだ。

「それはいい考えですね! 早速、明日やってみましょう」

 イチさんの糸目が、一層細くなる。果たして佳月様はどう思うのか不安だが、少なくとも彼女が賛成してくれてよかった。

 イチさんと相談して、明日の昼食を外で食べることに決めた。お茶をするより大掛かりになるが、イチさんも乗り気になっているのだから試す価値はあるのだろう。

「佳月様には、私の方から声をかけておきますからね。それから、必要なものもそろえておきますよ」

 彼が本当に来てくれるかはわからない。迷惑なら、遠慮なく断ってもらいたい。

「お願いします」

 それでも、来てくれたら嬉しい。
 不安と期待を胸に、明日はなにを作ろうかと思いを馳せた。