佳月様の宮に暮らすようになって、一週間が過ぎた。とはいっても、もとの世界とは時間軸が違うようで、あくまでここでの時間に換算すればだ。

「イチさん、前にお話していたプリンを作ってみました」

 ここにいさせてもらうお礼として、毎日の食事作りとたまのお菓子作りは、すっかり私の仕事にさせてもらっている。材料や道具は、前もって彼女にお願いしておけば、かつてのお供え物や現世へ行って手に入れてきてくれる。

「なんて美味しそうなんでしょう! プリンをいただくのは、久しぶりになります」

 現世でイチさんは、様々な情報を得てくる。流行りの食べ物も目にする機会はあるそうだが、もともとは狐だったせいか、食に対する偏見があるらしい。見た目がかわいいとか、豪華な食材を使ったものではなく、余分なものが入っていない素朴な味が好みのようだと、ここ数日のやりとりわかってきた。

 とはいえ食わず嫌いなところもありそうで、私のできる範囲で徐々に好みの幅を広げて行けたらと思っている。

「たくさんありますからね」

 イチさんの少々過剰とも言える反応は、私を安心させてくれる。数日前に餅を揚げたあられを出したときは、飛び上がる勢いで喜んでくれた。
 オーブンの代わりにできそうな竈もあるから、いずれ焼き菓子も作ってみたい。

「早速、佳月様にもお出ししましょうね。ええ、ええ。お茶の方は、私におまかせください」
「はい」

 笑みこそ見せはしないものの、佳月様も私が作ったものをすべて口にしてくれている。あの冷淡な視線にはどうしても怯みそうになるが、いつもイチさんが付き添ってくれるから心強い。

 準備が整い、ふたりで佳月様の部屋を訪れた。

「佳月様、入りますよ」

 イチさんはいつだって緩い口調なのに、拒否は受けつけさせない雰囲気がある。

「ああ」

 佳月様の方もなんだかんだ言いながら彼女を信用しているようで、声をかけるのと襖を開けるのがほぼ同時であっても怒りはしない。

 失礼でない程度に室内をうかがい見る。佳月様はいつもの机に向かって、なにかを読んでいたようだ。

「ほら、綾目様」
「は、はい」

 緊張が隠しきれないまま、佳月様の前に出る。視線を上げた彼は、瞬きもしないでじっと私を見つめた。

「プリンを作ってみたので、よろしければどうぞ」
「熱いお茶も淹れましたからね。さあさあ、佳月様。机の上のものを片づけてくださいね」

 てきぱきと動くイチさんに、佳月様は仕方がないとでもいうようにため息をこぼしながら従っている。

「どうぞ」

 畳に膝をついて、そっと彼の前にプリンを差し出す。それに視線を落とした佳月様の反応を、じっと待った。