煙突から上る煙を、呆然と見つめる。空は青々と晴れ、雲ひとつ見当たらない。

 集まった親族は、さっきまで腫物に触れるように私に接していた。けれど、心ここにあらずな返答を繰り返す様子を見て、しばらくそっとしておこうと決めたようだ。そろって控室に戻っている。

 両親の事故を知らされたあの日、ふたりが搬送されたという病院へすぐさま向かった。私がたどり着いたとき父はすでに亡くなっており、たくさんの管をつながれた母も意識不明のままだった。機械の力でかろうじて心臓が動いている姿はあまりにも衝撃的で、ただその場に立ち尽くし続ける。看護師らが声をかけてくれたが、なにを言われていたのかはまったく覚えていない。

 おそらく、医師の配慮で私の到着を待ってくれていたのだろう。それほど経たずして、母の死亡も確認された。

 気の抜けてしまった私の代わりに、親族が葬儀を取り仕切ってくれたのはありがたい。ただ、私を労わるような視線は、時間を追うごとに苦々しいものに変わっていることに、なんとなく肌で感じていた。

「はあ」

 これから自分は、どうなってしまうのだろうか。両親を失ってひとりぼっちになってしまった恐怖に押しつぶされそうになりながら、ようやく足を動かしはじる。

 お手洗いに寄って、涙にぬれる顔を軽く洗い流す。ハンカチで水気を拭いて、鏡を覗き込んだ。二重瞼のぱっちりとした瞳は、なにかをしていても、なにもしていなくても、ここ数日は涙で潤んでいる。さくらんぼのようなぽっていりとした赤い唇も、今は色がくすんでかさついてしまった。色白だと言われていた肌はもはや青白くなり、生気が感じられない。

 どうして私だけ置いていってしまったのか。幾度となく心の中で問いかけたが、応えてくれる声はどこにもなかった。

 もう一度目もとを拭い、親戚の集まる控室に向かった。