「かわいそうに、すっかり凍えてしまって。もう少しの辛抱ですからね」

 労わりの声をかけながら、さっき通り抜けたばかりの棚に向かう。

「それでは、行きますよ」

 少女には聞こえてないだろうが、敬意を払って逐一声をかける。この娘のおかげで、敬愛する佳月様がその存在を保っていられるのだから当然だ。

 佳月様の住まう宮に戻り、まずは彼女の服を着替えさせた。

「私は女なので、許してくださいね」

 ここはいつでも快適な温かさに保たれているが、冷え切った体には、さらになる暖が必要だ。このままでは、意識が回復しても手足が正常に戻らない可能性もある。

 薄っぺらな白装束を脱がせて、用意しておいた浴衣を着せていく。心優しい少女に似合う花柄を選んだが、すっかり青ざめてしまっている今は、華やかさが陰ってしまう。サイズの合っていない足袋も脱がせて、ちょうどよいものを履かせてやる。

 支度が整い、布団に寝かせて厚手の毛布を掛けた。

「これで大丈夫でしょう」

 目が覚めるのは、少し先だろう。その間にやらなければならないことがたくさんある。差し当たって、まずは佳月様への報告だ。

「佳月様、佳月様」
「なんだイチ。またか」

 うんざりした顔をされるが、かまいやしない。どうせ佳月様も、すでに事態を把握しているのだから。

「ひどいったら、ありゃしないんですよ」
「お前の話は、いつも突飛だな」

 それは仕方がない。もとが狐なのだから、難しく考える前に感情のまま言葉が飛び出してしまうのだ。

「私が駆けつけたときには、もう意識がなくてですねぇ。ええ、ええ。なんというひどい仕打ちでしょう。もう少し遅かったら、手遅れになっていたかもしれません」

 その報告に、佳月様の表情が怒りに歪む。
 人間のことで心を揺らす姿を見るのは、ずいぶん久しぶりだ。

「助けるのはいいが、ここに連れ帰ってどうするつもりだ」
「もちろん、元気になられるまでお世話をさせてもらいますよ」
「そうじゃない。その後の話だ」

 最初から、それを聞きたかったのはわかっている。

「そうですねぇ。彼女、ああ、綾目様って言うんですけどね」

 佳月様の顔色を注視しながら、簡単な説明する。

「ずいぶん、かわいそうな目に遭っていたんですよ。ええ、ええ。そのあたりは、気になれば本人に尋ねてくださいな」

 たまにのぞき見して知ったわずかな情報だけでも、彼女の置かれている不憫な状況は十分に伝わってきた。

「尋ねる気などない」

 辛辣に言い放つったが、意識はまだ私の話に向いている。