「えっと、まずはこれを着せればいいのね」

 声を発した女性が手にした薄手の白装束に、後ずさりしたくなる。まさかあの薄い浴衣のようなもの一枚で放り出されるのだろうか。

 言われるまま、渋々腕を通していく。水通しもされていない、おろしたての物ようで、ごわごわとして着心地はよくない。
 着物と違って複雑な帯があるわけでもなく、着つけは難なく終わった。

「とりあえずこれでいいわね。寒いから、上着を羽織っていいわよ」

 全身の震えが止まらず、腕を通すのですら難しい。

「ほら、この足袋を履いて」

 履き方はそれほど難しくないのに、これもやはり手こずった。

 続いて、鏡の前に座らされる。

「ここからは、和子(かずこ)さんの出番ね」

 それまで手を出さずに控えていた女性が、私の背後に立つ。

 彼女らの話によれば、和子さんは若い頃に美容師の仕事をしていたようだ。結婚して辞めてしまったが、その腕を買われて、村で結婚する女性がいると花嫁の着つけや髪のアレンジに化粧も担当してきたという。過疎化が進み、最後に手伝ったのはずいぶん前になるようだ。

「髪はこのままでいいみたいね」

 櫛でときながら、和子さんが確認するようにつぶやいた。
 ここへ来た当初は、肩に触れる程度の長さだった。今はさらに伸びている。自分で支払うとしても、美容院へ行きたいとはなかなか言い出せず、普段は長くなった髪をひとつにまとめている。

「綺麗な髪ね。都会から来たって聞いてたけど、変に染めてもなくていいじゃない」
「そうね。和服が似合いそうな黒髪だわ」

 鏡越しに、背後に立つ女性らに愛想笑いを返す。

「あとはお化粧ね。綾目ちゃん、だったわね?」
「はい」

 正目に回ってしゃがんだ和子さんが、私の顔をじっと見つめる。

「若い子はいいわね。綺麗な肌。色も白いし、へんにいろいろ塗らない方がいいわね」

 方針が決まったようで、和子さんがメイク道具を手にする。

「眉を整えて、口紅つけるぐらいにしておきましょう」

 ほかの女性たちも、うんうんとうなずく。

 すべての準備が整った頃には、十八時を少し過ぎていた。外気で曇った窓ガラスの向こうは、すでに真っ暗になっている。
 神社には、十八時半に到着できるように移動すると教えられる。