神社でひと晩過ごすだけだと言っていたが、クリスマス目前のこの地方の寒さは、今よりさらに厳しいはず。
 社殿の中に入れたとしても、見るからに隙間風が吹き抜けそうだった。当然、電気が通っている様子もない。たくさん着込んでいければまだいいが、〝生贄〟というからにはそれ相応の服装が求められるかもしれない。

 そう心配になる一方で、〝生娘〟が条件である以上、勝吾や昭人のセクハラまがいな言動もしばらくなりをひそめるだろうと、わずかに安堵する自分もいる。あの人たちになにかされるぐらいなら、寒空の下で過ごす方がよほどましだ。勝吾の湿った手の感触を思い出して、気持ち悪さに体が震えた。

 生贄に選ばれたとはいえ、特段変わらない日々が続いた。足しげく通う神社では、相変わらず人を見かけないし、お供えもない。〝儀式〟と聞いて身構えていたが、その日だけ取り繕ったところで、これまでずっと蔑ろにされてきた神様が振り向いてくれるとは思えない。

 本当に実行するのか疑問に感じていたが、指定された日になり、芳子から出かける準備をするように指示をされた。

「綾目、時間よ」

 言われるまま入浴も済ませておいたが、梶原家の人は全員在宅の明るい時間帯に入るのはどうにも落ち着かなかった。

「はい」

 体裁もあるのか、家の中では私を奴隷のように働かせる芳子も、一歩外に出ればよき養母になる。
 彼女とともに向かった集会所には、五十から六十代ほどの女性が四人集まっており、準備に関する資料を呼んでいた。

「お待たせして、すみません」

 芳子に合わせて、隣で私も頭を下げる。

「ああ、来たわね。さあ、上がって。ちゃっちゃとやっちゃいましょう」

 今日はこの後、雪が降る予報になっている。なにもこんな真冬におこなわなくてもと思うが、来年を見据えて今やらなければ意味がないらしい。その根拠は、資料に載っていた情報だと聞いているが、古いものを正しく読めているのかは怪しいところだ。

 室内にはストーブがたかれているにも関わらず、底冷えするように寒くて、手足は冷え切ったままだ。
 服の下には、あらかじめ渡されていた白いシンプルな下着をつけている。人前でそれを晒すのは恥ずかしいが、拒めるはずがない。