食器の片づけが終われば、さっさと自室に戻るようにしているが、今夜は勝吾に呼ばれてしまった。

 自室に控えていた彼は、布団の上に座った状態で私を招き入れる。

「やっと来たか。ほれ、肩でももめ」

 嫌々なのが伝わらないよう、心を押し殺して勝吾の肩に手をかけた。

「もっと強く」

 真っ当な指示のようで、その実そうではない。肩に乗せた私の手に、勝吾の汗ばんだ生暖かい手を重ねられる。思わず「ひっ」と声をあげそうになったのを、必死で堪えた。

「こうだ」

 さらに、その手をギュッギュッと握り込まれて、気持ち悪さに背筋が寒くなる。

 これだけで済めばましな方だ。場合によって、さらにうつぶせになった勝吾にまたがり、腰の指圧を強要されるときもある。
 正直、嫌悪感しかない。早く解放されたい一心でいるが、ようやく終わったと思えば「お返しをしてやろう」と言いながら、逆に私の肩に手をかけてくる。もちろん、遠慮は許されない。

 その手つきはどうにもいやらしく、さすがにセクハラまがいな行為をされているとわかっている。けれど、助けてくれる人は誰もいない。逆に、芳子からは憎しみすら感じる視線を向けられるし、公佳には軽蔑されている。

 ようやく自室に戻ると、とめどなく涙があふれてきた。
 いっそのこと、出ていこうかとも考えた。でも、未成年では部屋を借りるのですらままならず、助けを求める先は思い浮かばない。

「うっ……くっ……」

 早く大人になりたい。誰にも頼らずに生きている力と立場がほしい。
 心は日に日に擦り切れ、亡くなった両親のもとへ行くことまで考えるようになっていた。