いつも通り秋汰とだべっていると、この前話しかけてきたクラスの女子が俺らの席へと駆け寄ってきた。
「おはよ〜」
「おぉ、おはよぉ」
「はよ」
三つ編みに眼鏡という、The真面目な見た目とは裏腹に、秋汰と同じような感じで、色んな人に挨拶して話しかけてるコミュ力お化けだ。
でも、この女子……秋汰と話してるとこはよく見かけるけど、名前もどんな人かも知らない。
そして挨拶を交わしたあとも、何か言いたげな表情でこちらをチラチラ見ていた。
「ちょ、ちょっとさ……津村くん。二人で話せない?」
やっと口を開いたと思えば、思いがけない言葉が。
「え、俺……?」
「え?! なんでつむだけなん? 俺は?!」
いや、それはマジで俺のセリフ。
この女子と話したことはおろか、名前すら知らないのに。すげぇ気まずいし、何話すんだよ……
「茜くんはお留守番してて! 津村くん、ちょっと廊下来て!」
「……わん」
秋汰は納得いってない表情で頬を膨らませている。
なんか、飼い主に置き去りにされる犬みたいで可愛いな。
「秋汰……? 行ってくるわ」
一体なんの用だ……と思いつつ、クラスの女子の後に続いて教室を出た。
廊下をしばらく歩いて、人気の無くなったところで、その子は足を止めた。
「あのね、ずっと気になってて……」
「何が……?」
女子は相変わらず何か言いたげにモジモジしている。
しばらく無言の時間が続くと、何か決心したように突如口を開いた。
「津村くんって……茜くんと付き合ってるの?!」
「……?! は、?」
まさかの問いかけに思わず目を見開き、素っ頓狂な声が出た。
俺と秋汰が? 付き合ってる?
いや、最近よく話してるとは思うけど……まさかそんなふうに勘違いされてたとは思いもしなかった。
「いや、なんでそんな勘違い……?」
「あのね、実は私、見ちゃったんだ……」
何を? と聞き返す前に、女子は少し気まずそうに小声で囁いた。
「津村くんと茜くんがキス、してるとこ……」
”キス”……その単語が聞こえてきた瞬間、ピリッと身の毛がよだつ。
――やばい。
まさかアレを見られてたなんて……
なんて言い訳するか……?
「いや、その……あれは……」
「うんうん! 私、そういう恋バナ大好き!」
しどろもどろになっていると、そんなことはお構いなしに、女子は瞳をキラキラ輝かせながら、グイグイと近寄ってきた。
なんか、すげぇ勘違いされてる気がする。
でも、こういう時なんて説明すりゃいいんだ……?
ただ、だれかにぶつかられて、事故だったって言えば……
と、俺は、その時の状況を説明した。