「とりあえず、もう夜も遅いし……今日は泊まっていきなさい?」
「でも……申し訳ないですし……」
「こんな夜中に出歩いちゃだめよ。分かった?」
「……ほんまにありがとうございます」

 秋汰は少し安心したようにお礼を言うと、嬉しそうに微笑んだ。
 さすがに俺もあんなことがあった以上、秋汰を家に帰すのは安心できない。

「そういえば、修学旅行まであと一ヶ月もないねんな」
「文化祭から一ヶ月も経たずにまたイベントかよ……」
「でも、高校の修学旅行は一生に一度やで?」

 イベントか……めんどくさい思い出しかないから、あんまり乗り気になれねぇんだよな……

 ベッドに腰掛け、ため息をついた。
 
「でも、俺と一緒やから楽しみやろ?」
「……うざ」

 得意げな表情で問いかけてきた秋汰の頬をつねる。
 楽しみじゃないといえば嘘になる。秋汰と一緒にいれば退屈しない。それは、秋汰と話すようになってからずっと……

 秋汰は俺の膝の上に頭を乗せ、ベッドに寝転がった。

「つむの家は、いつも温かいな」
「もうお前ここで暮らせよ」

 俺の頬にそっと添えられた秋汰の手を優しく握り、そう返すと……秋汰は幸せそうに微笑んだ。

「俺な、つむとずっと一緒におれたら……って思っとったんよね」
「なんで過去形なわけ」
「付き合う前から、ずっと思っとったよ。ってこと!」

 付き合う前から? ……そんなの初めて知った。
 俺とずっと一緒にって……

「は……?」
「家に帰りたくない時とか……あの廊下の角曲がって、エレベーターの方に消えてったつむの背中見て……”なんか起こって、戻ってきてくれへんかな”って思ったり……」

 なんだそれ……
 ほんとにコイツ……

「……可愛い」

 秋汰の髪の毛をさらりと掬い、そっと唇を落とすと、秋汰は俺の手を強く握った。