「あ、やばい。今思い出したけど今日祝日なんやっけ?」
「ん、祝日だったはず」
「親に何も言わずに出てきてしまったわ……」

 それがなにか問題になんのか……? と俺は心の中で疑問に思う。
 まぁ、でも……秋汰の家は色々と事情が複雑なのは知ってる。けど……休日家を出るのにも許可がいるなんてこと……ねぇよな? そんな、男子高校生相手にいくらなんでも過保護すぎる。

「まだ夕方だし大丈夫だろ。送るよ」
「……せやな。ありがとうな」

 浮かない表情の秋汰が気になりつつも、秋汰のマンションに着いた。
 いつも通りエレベーターに一緒に乗り、秋汰の家の前まで行くと、見送られながらまたエレベーターに戻る。

 そう、俺がまさにエレベーターに乗り込もうとしたその瞬間……


 ガシャン!!


 なにかガラスのような物が割れる大きい音が聞こえてき、俺は反射的に秋汰の家の方へと向かった。

 そこで俺が見た光景は、目を疑いたくなるようなものだった。

「秋汰……?」

 陶器の破片がマンションの廊下に散らばり、ドアは開けっ放しで秋汰は座り込んでいた。
 髪はびしょびしょに濡れていて、ポタポタと雫が床に落ちていく。

 俺は秋汰に駆け寄り、肩を支える。
 そして、ふと家の中に視線を向けると……

「何? 貴方……」

 キツい目でこちらを睨みつける女性。多分秋汰の母親だろう。

「つむ、大丈夫やから。帰ってええよ」
「……は? 放っておけるわけねぇだろ」

 項垂れるようにこちらを見ようともせずに、秋汰はそう呟いた。

「だから、なんで何の連絡もなしに外に出たんだって聞いてんだよ!」

 秋汰の母親は、そんな秋汰の胸ぐらを掴みかかる。
 俺が慌てて秋汰の母親の腕を抑えると、勢いよく振りほどかれる。

「……っ!」
「つむ……?!」

 強く投げ飛ばされた俺は、ドアの角に頭をぶつけ、思わず倒れ込む。それに驚いた秋汰が俺に駆け寄ってきた。

「あぁ、もうアンタもアイツと一緒なのね。よく分かったわ」
「いっ……!」

 辺りに響き渡る、頬を叩かれる音と共に、秋汰も床に倒れ込んだ。
 母親は家の中に入っていき、ドアは勢いよく閉められた。

 これ以上なにか暴力をふるわれる心配はない。そう感じた瞬間、安心したのか瞼が少しずつ閉じていった。