『二年A組の津村くん、いらっしゃいますかー?』

 若干ザワザワしている体育館の裏口に入って人混みを抜け、ステージに向かう階段を上る。

 慌てたように係員の生徒がマイクを俺の側へと持ってきた。

「遅れてすみません。二年A組の津村です」

 そのままステージの花道を歩いてセンターステージで立ち止まる。


 そして、お姫様抱っこしていた秋汰をそっと下ろすと、腰に手を回して抱き寄せ、持っていたうさぎのぬいぐるみで顔を隠し、そっとキスをした。


 その瞬間、体育館中は歓声が悲鳴か分からないくらい盛り上がり、途端恥ずかしくなった俺は、そのまま秋汰の手を引いて花道を戻り、ステージから出た。

「……これで満足かよ」
「なんでいっつもこんな無茶ぶりなん……」
「いいじゃん、お前ってバレてないんだし」

 そんなことを言いつつも、秋汰は嬉しかったのか、ふふ。と笑みを零した。

「でも絶対ガチで怒られるから。そんときは何も言うなよ?」
「えぇ? 俺のせいなんに?!」
「別にいいよ。俺が無理やり連れてったわけだし」

 秋汰は納得いってないみたいだけど、後々めんどくさくなりそうだし、まだ秋汰も完璧に付き合ってるってバレてもいいって吹っ切れてなさそうだしな……

「とりあえずバレたくないなら、今のうちに着替えたら?」
「……せやな。そうするわ」

 三ツ矢さんやクラスの皆には悪いけど、俺らは先に制服に着替えることにした。

チラッと教室を見てみたら、みんな体育館に行っているみたいで、俺ら以外誰もいなかった。

「あ、秋汰。着替える前にさ」

 メイド服のエプロンに手をかけて脱ごうとしていた秋汰に呼びかけると、秋汰は慌てて手を止めた。

「どしたん?」
「もう一回キスさせて」

 耳元でそう囁くと、秋汰は顔を真っ赤にして目を見開いたあと、そっと小さく頷いた。

 俯いている秋汰の長い髪を耳にかけ、そのまま唇を重ねる。
 これでコイツの女装は見納めかと思うと少し残念だけど……まぁ、後悔はない。

「なんか言ってくれや……恥ずいねん」

 秋汰は赤い顔で頬をふくらませながら俺の腕をつついた。

「んー、可愛い。……こっち向いて」

 その呼び掛けに、ふと俺の顔を見た秋汰をパシャリとスマホで撮る。

 普段盗撮されまくってるんだし、少しくらい許されるだろ。多分……。