◇ ◆ ◇

 それから、いつも通りの平和な日常を送っていた。

 ただ、一つだけいつもと違うことが……

「つーむきゅん! おはよーさん!」
「ちょ、ひっつくな」
「何照れてん〜?」
「…………」
「ごめんやん! 黙らんとってや!」



 ――何故か秋汰が異様なほど絡んでくるようになった。



 今までは朝挨拶をするだけで、休み時間や授業中に会話をすることなんて……ほぼほぼ無かったと思う。

 それが今では休み時間だけでなく授業中でさえ、振り返って話しかけてくるようになった。
 それに、ベタベタ触れてきて距離も近い。知らない間に懐かれてたみたいだ。

 別に嫌じゃない。……けど、なんだか落ち着かない。

「あ、それ売店で新発売しとったシュークリームやん!」
「あー、なんかコーヒー味って書いてあったわ」
「ええやんええやん! 1口くれへん?」
「まぁいいけど……」

 買ったばっかだし、俺まだ食べてないんだけど……と思いつつ、秋汰にシュークリームを袋ごと手渡した。
 そして、秋汰は嬉しそうに袋を開けて、そのままシュークリームにかぶりついた。

「あ、おい、クリームこぼすなよ?」
「んん! んまい! けど苦いな!」

 まぁ、そりゃコーヒー味だし。多少は苦いんじゃね? と頭の中で冷静にツッコミを入れてみる。

「茜くんおはよ〜! って、また津村くんといるの〜?! 最近ベッタリだね」

 クラスメイトの女子は、俺らの席へ寄ってくるなり笑いながらそう言った。

「おはよー! せやろ? 俺らラブラブやから」
「おい、やめろ」

 秋汰の冗談に間髪入れずに否定すると、秋汰は頬を膨らませた。

 変な風に勘違いされたらどーすんだよ。と思いながら、俺はシュークリームを1口食べた。

「あれ、これ何味だっけ」
「ふつーにコーヒー味やろ?!」
「あ、そっか……?」

 自分の味覚に若干不安を覚えた。
 なんか、コーヒーというより、果物っぽい味というか……

「おいおい、つむ寝ぼけとんか?」
「…………?」

 コーヒーってこんな味だったか? いや、でも袋にコーヒー味って書いてあるし……

 俺は袋を凝視しながらモヤモヤしていた。

 秋汰が言うような苦さは全く感じず、それどころか違う味に感じた。

 なんだっけ……この味……

 と、そんなことを考えていると……

「秋汰ー! 昨日の投稿バズってるぞー!」
「え! ほんま?! 見せてやー!」

 いつも賑やかなグループから声をかけられると、秋汰は慌ただしく椅子から立ち上がり、クラスメイトの方への駆け寄って行った。

 静かになった空気に、眠気を感じてきた。
 そういえば、今まで俺はいつも……休み時間をこうやって寝て過ごしていたんだった。

 それが今では、秋汰のくだらない話や持ちネタのギャグを聞かされて……気づいたら秒で休み時間が終わっていて……

 こんなに急に距離を詰められても、なんだかんだ憎めない。

 秋汰は人懐っこい犬みたいだ。
 茶色いふわふわのプードルみたい。