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夏休みが終わるまであと五日。
ボヤけた視界を覚ますかのように目を擦り、スマホに表示された日付を見ながらそんなことを考えていた。
もう昼か……そろそろ起きるか。と、大きな欠伸をしてベッドから起き上がろうとすると、秋汰からメッセージが届いた。
『あと十分で着くで!』
……やっべ、マジでなにも準備してない。
今日は秋汰と初めてのデート。
近場の映画館で映画を見て、適当に過ごすっていう、まだ予定も決まりきってない。
昨日の夜、秋汰とビデオ通話したんだけど、予定を決めるはずが、秋汰は過去の面白い話をはじめていて気付いたら四時間も経っていた。
そしていつの間にか俺が寝落ちしていて、今に至る。
いつ通話が切れたのかわからないし、アラームもかけてなかった。ギリギリとはいえ起きれたのが奇跡。
ってか、そんなことしてる暇じゃない。
もう少しで秋汰が家に来る。
元々は俺が迎えに行くつもりだったけど、あまりにも俺が起きないもんだから、秋汰が来てくれることになったみたいだ。
とりあえず急いで髪を濡らし、ドライヤーをかけてワックスで整えた。
特別な日とはいえ、いつも通りでいいだろ。多分……。
「魁ー、秋汰くん来たわよ」
やべ……
母さんに”人を待たせるな”ってボヤかれる前に家を出ないと。
オーバーサイズの半袖黒シャツの下に白いTシャツを合わせ、黒のスキニーを履くと、大急ぎで玄関へと向かった。
「おまたせ」
玄関にはくすみピンクのロングTシャツに、暗い灰色のジーンズを履いた秋汰がいた。
「遅っ、絶対寝起きやろ」
「……いや?」
「声で分かんねん!」
マジで? 寝起きってそんないつもと声違うもんなのか。
これ以上詰め寄られるのはごめんだ。と、俺は無言で家を出た。