あれから何も考えないように、と無心で食堂のカツカレーを食べた。
 不自然にならないようにと、深く深呼吸をして教室へ戻ると、既に前の席には秋汰が座っていた。

 椅子を引く音が鳴ると、秋汰の体は驚いたように少しだけ跳ねた。

 俺らは朝に挨拶する以外、普段会話を交わすことはない。
 それなのに今日はすごく気まずい。

 まぁ、理由はもちろんさっきの……
 はぁ、思い出したくもねぇ。

 ただ、この気まずい空気をずっと続けるのも嫌だし、めんどくさい。
 明日まで引きずるつもりはない。

「なぁ、秋汰」
「……ッ! な、何? どしたん?」

 意を決して秋汰に声をかけると、秋汰はこちらに振り返ることもせず、背中を向けた状態で返答した。

 その秋汰の態度に小さくため息をつき、面倒だから、とりあえずこのまま話すことにした。

「さっきのは完璧事故なんだしさ、忘れよーぜ」
「……ほんまに?」

 恐る恐るこちらを振り返る秋汰は、顔を真っ赤に染めていた。

 あ……俺と話したくない。とかじゃなかったのか……
 それに気付くと、なんだか妙にホッとした。

「お前も誰かに押されたんだろ? 怪我とかなかった?」
「俺は大丈夫やけど……嫌やったよな。ごめんな」
「いいよ、もう気にすんなって」
「……ありがとうな」

 秋汰は嬉しそうに微笑んだ。
 これでいつも通りのアイツに戻ってくれたら、俺はそれでいい。


 ――そう思っていたのに。