何食わぬ顔で教室へと戻ると、すぐに三ツ矢さんが駆け寄ってきた。

「ちょっと、津村くんどうしたの? いきなりいなくなるんだもん」
「あぁ、ごめん。……秋汰に告ってきた」

 申し訳なさそうに小声でそう伝えると、三ツ矢さんは叫び声をあげてその場に座り込んだ。

 あまりの叫び声のボリュームに驚いたのか、クラスの皆の視線がこちらへ集中する。
 そして駆け寄ってきた一人の男子。たしか学級委員長の……名前が分からない。

「三ツ矢、大丈夫? 津村くん……何したんだ?」

 あ……この人が三ツ矢さんの彼氏か。
 ひと目でわかった。彼は、しゃがみ込んだ三ツ矢さんの肩を大切そうに支え、俺を睨みつけてきた。

「違うの……草部(くさべ)くん。……それで、どうだったの……?!」

 彼の心配をよそに、三ツ矢さんは目を輝かせながら続きを待っていた。

「どうだった……って、誤解といて告って終わり」
「え?! まだ付き合ってないの……?」
「付き合う……?」

 そんな話にはならなかった。
 というのも、俺はただ秋汰に話を聞いて欲しかったのと、誤解をときたかっただけで……別に秋汰に付き合って。と言うつもりなんて最初からなかった。

 でも、それが三ツ矢さんにとっては信じられなかったのか、わなわなと目を見開いて震えていた。

「茜くん……返事しなかったの……? 信じられない……」
「いや、そもそも返事とかじゃなくて、告ってそのまま話が終わったっていうか……」
「どうして返事貰わなかったの?! 付き合えたかもしれないのに!」

 ……そういうものなのか……?
 そもそも秋汰が俺と付き合う気が全くないのは見てわかるし、返事が欲しいなんて俺も思ってない……

 これで振られたら、余計に気まずくなるんじゃないかって思う。