「秋汰!」

 距離はあと五メートル。それくらいまで追いかけると、俺はその背中に呼びかけた。

 秋汰は俺の声に反応して振り返ると、立ち止まり、驚いたように目を見開いた。

「つむ……? なんで……」
「いや、それこっちのセリフ。どーしたんだよ」

 俺の問いかけに答えたくないのか、秋汰は悲しげな表情で目を逸らした。

 何があったんだよ……って、よく見たら目がすげぇ赤い。それに……

「つ、つむ……?!」

 俺は秋汰の両頬に手を添え、顔を無理やり斜め上に向けた。
 
 やっぱり。涙のあとが残ってる。

「秋汰、どうした……?」
「……なんもない」

 親指で涙のあとを拭うと、秋汰は泣きそうな声で小さく呟いた。

「……言いたくないなら無理には聞かないけど、家まで送らせて」

 秋汰の左手をとり、家の方へと向かおうとしたその瞬間。
 秋汰は「行きたくない」と言わんばかりに、俺の右手を力強く握り、立ち止まった。

「……秋汰?」

 不審に思い、秋汰の顔を覗き込むと、目からは一筋の涙が……

「え、マジでどう「帰りたくない……」

 秋汰は俺の顔を見上げ、言葉を遮る。
 その様子に、ただごとじゃないと察する。

「とりあえず……こっち、公園あるから」

 ここだと人目につくし、落ち着いて話せない。と、俺は秋汰の左手を引いて、隣の公園へと入っていった。