いや、待って。
冷静に考えると、俺がただいつも、つむにくっついとるだけで、つむにも当たり前に感情はあるわけで。
事実三ツ矢さんの事が好きなんやし……
勝手に俺の俺のって言っとるけど、つむにとって俺って、別におらんくてもいいんちゃう……?
そう思うと、途端怖くなってきた。
俺やって、三ツ矢さんとつむが付き合うのが嫌やからって、つむにベタベタしとったわけやし……そんなん自分勝手やねんけどさ……
でも、ほんまにそれだけやったんかな?
……って、それだけやなかったら、何があるん? って感じやけど。
ただ、花乃ちゃんとつむが付き合うんは……なんか嫌や。
三ツ矢さんと……つむやったら……?
そんなことを考え始めた、その瞬間……教室の扉が開いた。
「あれ、津村くんだ。おはよう」
「ん、三ツ矢さんおはよ。花乃さんもおはよ」
「お、おはよ!」
遅かったやん、今まで何しとったん? そんな質問をする前に、顔を真っ赤に染めた花乃さんが目についた。
「な、なぁつむ! 今どんな人が好きかって話しとったんけど、つむはどうなん?」
我ながら無鉄砲でアホな無茶ぶりしたな。って思った。
多分つむは三ツ矢さんの特徴を何となく挙げる。そう踏んで、つむの瞳を見つめた。
つむはこの上ないほど面倒くさそうな表情をしたあと、俺の隣で足を止めた。
「……お前」
見下ろすようにそう言って、通り過ぎて行った。
まさかの返答に言葉を失って唖然としていると、つむは振り返った。
「冗談だよ、ばーか」
悪戯っぽく舌を出したつむは、そのまま教室後ろのロッカーの前まで行ってしまった。
な、なんなん? つむ……朝から心臓に悪いやん……?
三ツ矢さんや花乃ちゃんに聞こえんか心配になるほど、俺の心臓は早く、強く、確かに高鳴っていた。