それから俺は、適度な休憩(昼寝)を挟みながら、授業をこなした。

 ついに午前の授業が終わるチャイムが鳴り、学食へ向かうために立ち上がろうとした時……

「なぁなぁ、ちょっと話せへん?」

 茜は振り返って、申し訳なさそうな表情で俺に問いかけた。

 話すって何をだよ……また朝たいに、オチのないくだらない雑談か? 

 でも、なんか申し訳なさそうな顔してるし……まぁ、少しならいいか。

「別にいいけど、どした?」
「ちょ、とりあえず廊下出よや」

 わざわざ廊下出なくても、教室で話せばよくねぇか……?
 そんな事を思いながらも、俺は茜に続いて教室を出た。

 ◇ ◆ ◇

「あ、あのな。朝の話やねんけど、誰にも言わんとってな?!」
「朝のって……恋愛したことあるかないかの、あれ?」
「そう! 俺、あんまそういうのバレたないねん」
 誰にも言うなって……俺いつも寝てるだけで、そんなこと言うような相手はいないって知らないのか?

「別に……わざわざそんなの俺から言うわけねぇじゃん」

 オドオドと心配そうに俺の顔を見つめる茜にそう言うと、その表情は一瞬でキラキラとしたものに変わった。

「ありがとうな! めっちゃ優しいねんな。……って、名前なんやっけ?」
「津村、魁」
「津村っていうんや! なら、”つむ”って呼ぶな!」
「ふっ、なんだそれ……初めて言われた」
「俺の事は秋汰って呼んでな!」
「わかった、……秋汰」

 クラスメイトの下の名前を呼び捨てで呼ぶなんて初めてで、少しだけ緊張する。

 しかも、つむって……なんかマジで俺っぽくないっつーか……
 まぁでも、なんかすげぇ嬉しそうだしいいか。