夕暮れの涼しい風を感じながら、マンションの入口で、秋汰が出てくるのを待つ。
「……あちぃ」
元々、今日は薄着の私服で行く予定だったけど、秋汰がどうしても浴衣にしようって聞かなかった。
だから、わざわざ大急ぎで浴衣を用意したんだけど……
マジで、浴衣とか初めて着た。
店に残ってたのが、黒地にグレーのストライプと、細く白い線が入ったデザインしかなく、仕方なくそれを買い、テキトーなネックレスとピアスをつけて紅葉色の帯を締め、家を出てきた。
そんな事を思い返していると、マンションの自動ドアが開き、秋汰が駆け寄ってきた。
「もう着いとったん? お待たせ」
秋汰は、いつもは下ろしてる前髪を今日は上で結んでいる。
そして、嬉しそうな表情で俺の浴衣の袖を掴んだ。
「え?! 俺ら色違いやん!」
俺の浴衣は黒地にグレーのストライプ。秋汰は白地に黒のストライプ
これについては特に口裏を合わせたわけでもない。
でも、なんかおそろいみたいで悪くないなって思った。
「んね、おそろい」
「ホンマやな! 俺、引っ越してきて、祭り行くん初めてやから、楽しみやわ」
俺らは歩き出し、とりあえず屋台のある所へ向かう。
冷静に考えてみたら、休みの日に秋汰と会うのは初めてだ。
「秋汰って、休みの日何して過ごしてんの?」
物があまりなく、生活感の薄い部屋で時間を潰すのって割と難しそう。
まぁ、秋汰はアクティブだし、友達と外出したりしてんだろうな。
「一人で出かけるくらいしかすることないんよなぁ。話題のとこ行ったりな?」
「映えスポット的なね」
「そうやな! 逆につむは休みの日はずっと寝てそうやけど」
「マジで一生寝てる」
”一人で”出かけるってのは意外だったけど、やっぱり俺は秋汰と真逆だった。
別に外出するのが嫌いってわけじゃない。……けど、秋汰みたいに、一人でも行きたい場所ってのが特になくて。
「それやのに今日、付き合ってくれてありがとうな」
「いや、誘ったの俺だし。逆にありがとな」
普段休みは面倒くさくて外に出ないはずなのに……
秋汰と出かけるってだけで、夜も眠れなかった。