好きでもない人を好きだと思わせることは、俺が思っている以上に辛かった。

 秋汰は無神経なのか、良かれと思ってやってるのか、事ある毎に俺と三ツ矢さんをくっつけようとした。

 その度に、三ツ矢さんからは「なんで?」と言わんばかりの視線を送られ、俺も俺でマジで気まずくて。

 自分から始めた嘘だけど、さすがにありがた迷惑すぎた。


「ちょっと津村くん! こういう二人きりになるチャンスは、茜くんと過ごすべきだよ」

 向かいの席に座ってる三ツ矢さんは、ムスッとしながら、担任に任せられた書類綴じの雑務をこなしていた。

 いや、こんな面倒な雑用、秋汰とでもゴメンだわ。

「いや、マジで巻き込んでごめん」
「私は学級委員長だからいいけどさぁ……茜くんも何で、あんなふうに強引なのかな……」

 三ツ矢さんと俺は同じタイミングでため息をついた。
 本当に、秋汰のおせっかいにはもう、うんざりだ。

「最近茜くんとどんな感じなの?」
「……うまくいかない」

 俺が小さく呟くと、三ツ矢さんはホッチキスを持った手を止めた。

「どうやったら好きになってもらえんだろうな……簡単な方法があればいいのに」

 って……俺、何言ってんだろうな。
 一応三ツ矢さんはライバルなのに。

「……分かる」

 誤魔化そうと口を開いた瞬間、三ツ矢さんは俺を見上げてそう言った。

「私も、よく思ったりするよ〜! うまくいかない時、この”好き”が伝わればいいのにー! って」


 三ツ矢さんは目を閉じて、胸に手を当てながら続けた。

「待って、三ツ矢さんって好きな人……いたの?」

「好きな人っていうか……彼氏かな」

 照れくさそうに頭を掻きながら、そう答える三ツ矢さん。
 俺は開いた口が塞がらず、唖然としたまま固まった。