「…………」

 俺は、あんな最低な嘘をついていながら、秋汰の顔を見ることが出来なかった。

「や、やっぱそうやんな……? 応援しとるから、頑張ってな……!」

 秋汰は声を震わせながらそう言った。
 本当はそんなこと、思ってもないくせに。

 なんで、こんな時も俺に優しくすんだよ……好きな人を”譲る”なんて、お前らしくない。仮にもし俺が、本当に三ツ矢さんを好きだったとしたら……ブチ切れてると思う。

 まぁでも……こうやって秋汰の優しさを利用して嘘をついた俺が一番最低だ。

「ありがとな、秋汰」

 嘘だと悟られないように優しく微笑んだ。


「な、なぁ……つむ」

 秋汰は遠慮がちに俺の名前を呼ぶ。
 その瞳には、若干の不安があるように見えた。

「ん? どした」
「あんな……こんな事があったけど、つむとは今まで通りでも、ええ……?」

「え、やだ」

 俺が秋汰の問いかけに即答すると、秋汰は泣きそうな目で俺を見つめる。

 だって、今まで通りなんて……俺がやだ。
 絶対三ツ矢さんのこと忘れさせる。
 それで……俺のこと好きにさせてみせるから。

 まぁ、それまでは”今まで通り”でいっか……。


「冗談だよ」

 俺はクシャッと笑いながら、秋汰の頬を片手で掴んだ。
 それに安堵したのか、秋汰は泣きながら俺に抱きついてきた。

「なんでなん、意地悪言わんでやー……」
「ごめんな、よしよし」

 頭を優しく撫でてあげると、嬉しそうに俺を見上げる秋汰。

 ……これから、どうするかな……