一通り賑やかなグループの人に挨拶を終えると、茜はこちらへ歩いてきた。

「おお、おはよぉ」
「……はよ」

 眠気も相まって、冷たく思われてしまうであろう返しをしてしまった。

 その事に若干後悔していると、茜はそんなこと気にしていないようで、満足気に俺の前の席へと座った。

「同じ景色見つめーていた〜♪」

 あ、ポピラシーの曲じゃん……
 茜の小さな歌声に合わせて、俺も心の中でその曲を唱え始めた。

 そんな時、茜は突然勢いよく俺の方に振り返ってきた。

「なぁなぁ!」
「ぅわ! びっくりした。……なんだよ」

 思わずびっくりして飛び起きる。
 もう少しで眠れそうだったのに。と、茜に若干苛立ちを感じていると、コイツは突拍子もないことを問いかけてきた。

「恋愛したこと……ある?」
「は……?」

 あまりにも突然だし、意味わかんねぇしで、呆気にとられる。

 いきなり何の話だよ。コイツ……そんなこと友達でも何でもねぇ俺に聞いてくるなんて……気でも狂ったか?

 だが、茜はキラキラと真っ直ぐな瞳で俺を見ている。
 大真面目に俺に質問してきたのか……? また何で……

「……ねぇよ。つか、そういうの興味無い」
「まぁ、せやんな……。俺もやねん」

「…………」
「わぁ、そんな睨まんといてや!」

 無言でジッと見つめ返すと、茜は「ごめん、ごめん」と何度も続けて慌てたように謝ってきた。

 いつもは挨拶だけで終わるのに、思い返してみたらコイツに話しかけられるのは初めてだった。

 なのに、結局オチのない謎の恋バナ(?)を振られて、ビミョーな感じに話が終わって気まずいだけの空間になってんじゃん。

 つか、こんな明るくて誰とでも仲良くなれそうなヤツが恋愛したことないとか……ありえねぇ。

 そんなことを考えていると、教室のドアが開き、担任が入ってきた。

「ヤバイヤバイ、担任来てもうた。俺なんも課題やっとらん!」

 茜は慌てて前を向いて、机の中から教科書を取り出している。

 なんか、台風みたいなヤツだな。朝からすげぇうるせーし……

「……鬱陶しいヤツ」