「そ、そうや! つむの制服洗濯してくるな!」
「いや、そこまでしなくていい……!」

 俺の制服とカーディガンを両手で持ち、勢いよく立ち上がった秋汰の腕を掴むと……

「おわっ!」

 ドサッ


 雨のせいで靴下が濡れていたのか、木目の床が湿っていたのか、俺は足を滑らせ、尻もちをついてしまった。

「……ッ!」
「――ッッ!」

 そして俺の上には、崩れ落ちてきた秋汰が乗りかかっていて……その距離は、もうお互いの鼻先が触れてしまいそうなほど。

「わ、悪ぃ……」
「い、いや……大丈夫やで……」

 すげぇ近い。いつも以上に……
 鼓動が鳴り止まない。こんな近くにいて、秋汰に聞こえてたらどうしよう。

 こいつ、さっきはあれだけで真っ赤になってたのに、今度は俺から目をそらさない。

 ……何なんだよ、マジで調子狂う。

 秋汰のこと、好きって思うの忘れようとしてたのに。
 だって、そうしないとヤバい。

 ――このまま止まらなくなりそうで。


「髪、まだ濡れとるな……」


 秋汰は小さく呟いて、俺の髪をそっと指先で掬うと、ぽつりと呟いた。
 その毛先からは雫がポタポタと滴り落ちている。

「だ、大丈夫……」
「大丈夫ちゃうやん。拭いたるから、じっとしとき……?」

 風邪ひきそうなほど冷たい水が流れてくる頬に、秋汰の温かい体温がそっと触れた。

 ――やめろ。
 そんな上目遣いで俺を見つめて……触れんなよ。

 お前にとって俺は、ただの男友達でも……
 俺にとってお前は……もう、ごまかせないほど好きな人なんだよ。



 ――そんな表情で見つめられたら……
 コイツが俺を好きだと勘違いしそうになる。

「悪ぃ、帰るわ……」

 俺は強引に秋汰を押しのけて、自分のカバンを手に取り、秋汰の家を出た。