「あ、秋汰じゃん!」

 秋汰と話をしていると、前の席に女子が座ってきた。
 この女子って確か……名前なんだっけ。

「おぉ、久しぶりやな!」
「うん! あと、津村くん……だよね?」
「え、うん……」

 その女子は遠慮がちに俺に目線を送ってきたが、まさか俺に話しかけてくるとは思っていなかったから、思わずキョドってしまった。

 だってさ……印象いい訳ないじゃん。
 この前、マウントとるみたいな事したんだし……

「あたし、花乃っていうの! よろしくね!」
「花乃さん、ね。よろしく」

 苗字か……? まぁいいや、相手も別に俺の事嫌ってるわけじゃなさそうだし、とりあえず安心した。

「前から話してみたいって思ってたんだぁ! LINE交換しよーよ!」
「え……」

「ちょ、つむは俺のなんやけどー……?」
「いいじゃん! いつも独り占めしてるんだし!」
「……そういうわけちゃうし」

 あからさまに不機嫌になり、ムスッとしている秋汰に、花乃さんは「ケチー」といじけたように言って、他の席へと移ってしまった。

 花乃さんって、秋汰の事が好きなのかと思ってたけど、別にそういうわけじゃないのか……? 三ツ矢さんと同じで皆に優しいというか、そういうタイプなのかもな。

「俺、あの人のこと性格悪い人だと思ってたわ」
「んー……性格悪いわけちゃうけど……グイグイ来すぎやんな」

 ふーん、と不意に窓の外を見ると、空は暗くなっており、少し雨が降っていた。

 やべ、傘持ってきてたっけ? どーするか。

「なぁ、秋汰……お前傘持ってきてる? 雨降ってきたんだけど」
「ホンマや、俺も持ってきてないねん! もうそろ帰らなあかんって思っとったんやけど……」

 降り始めなのか、まだ幸いパラパラ降ってるくらいのレベルだし、今ならまだ傘がなくても大丈夫なはず。

「まぁ、これくらいなら大丈夫だろ。送ってくから先帰ろうぜ」
「せやな! じゃあみんなに伝えてくるわ」

 秋汰はそう言うと、すぐに帰る準備を始めた。