「津村くん、職員室で先生が呼んでたよ!」
「え……?」

 呆気に取られている俺らをよそに、三ツ矢さんは俺の腕を掴んで、教室から連れ出してくれた。

 ◇ ◆ ◇

「あの、先生が呼んでるって……何で?」
「あれ嘘なの。津村くんが……泣いてるって聞こえてきて、心配で」
「ありがとう……」

 三ツ矢さんは、ふふっ、と微笑んだ。
 まだ話し始めて間もない俺に、こんなに優しくしてくれるなんて……三ツ矢さん、すげぇいい人なんだな……

「ごめんね、二人の話少し聞いてたの。茜くん、どうしてあんなこと言ったんだろう……」
「俺のこと、迷惑なんだろ……」

 俺が俯いてそう零すと、三ツ矢さんは励ますように俺の両肩を手で叩いた。

「そんなわけない! 好きじゃなければあんな風にずっと一緒にいたり、くっついたりしないよ!」

 もう、分かんねぇ……
 秋汰は好きでもねぇ奴ともくっつくかもしれねぇし、ベタベタも普通にするかもしれねぇ。

 そうだ、俺と初めて話した日より前は……?
 秋汰はどうやって過ごしてたんだ?
 きっと、他の奴とこうやって……

「津村くん……? 凄く悲しそうな顔してる……」
「え……」

 まただ、秋汰が他の奴ともくっついてる。そう思うと、胸の奥が痛む。

 これが、この前三ツ矢さんの言ってた”嫉妬”か……?

 ――ってことは……


「俺、やっぱり……アイツのこと好きなのか……?」
「……ッ! 津村くん、そうだよ! でもさ、クラスにはそういうのからかってくる人も、少しはいるからさ……茜くんも素直になれないんじゃないかな。だからあんなこと言っちゃったんだよ」

 三ツ矢さんは嬉しそうに微笑んだ。

 そういえばこの前……クラスの人にからかわれたことがあったな……。”キモ”だとか言われて。

 そういうの、やっぱり秋汰は気にすんのか……。まぁ、当たり前か……


 いや、でもあの、俺の気持ちを否定した時の、あの表情は……

 初めて見る、多分”ガチなやつ”だと思う……

「じゃあ私は行くから、ゆっくり落ち着いたら教室戻って来てね!」

 三ツ矢さんは、ひらりと手を振って教室へと戻って行った。