三ツ矢さんのあの言葉を聞いてから、授業中も休み時間もうわの空だった。
 秋汰の話も耳に入ってこず、何度も拗ねられることになった。

 昼休みに入ったら、二人で学食に行くのがいつものお決まりだった。でも今日は時間感覚がぶっとんでいたのか、昼休みになったことにすら気付かず、窓の外を見てはボーッとしていた。
 ここまできて、流石にどこかおかしいんじゃないかと思ったのか、秋汰はついに口を開いた。

「つむ、どしたん? なんかあったんか?」
「…………」
「つむ……?」
「……ん? あ、あぁ。大丈夫」
「絶対大丈夫ちゃうやろ?! ほら、言ってみ?」

 何の話か分からず適当に返事をすると、秋汰は心配そうに問いかけてきた。
 やばい、俺が話聞かなさすぎて、秋汰がマジで心配してる。

 とはいえ、バカ正直に言える話でもねぇしな……
 かと言って、一人で悩んでても仕方ないと思う。こうやってても一生答えは出ない。
 バレないレベルで相談してみるか。

「……あのさ、えっと……その、」
「つむ、とりあえず落ち着き? これ飲みや?」
「……サンキュ」

 中々悩みを切り出せない俺を見ると、秋汰は紙パックの紅茶を差し出した。
 深呼吸してそれを1口飲むと、不思議と落ち着いたような気がした。それと同時に、得体の知れない気持ちが溢れてきた。

 今なら言えそう。そんな不確かな確信をもとに、ついに俺は悩みを切り出した
「あの、さ……俺、好きな人ができたかも」
「かも……って、なに?」

 秋汰は俺のペースにあわせてゆっくりと話を聞こうとしてくれた。俺の言葉を聞き終えると同時に首を傾げた。

「その、好きっていうのが、分かんねぇ……」

 ――俺、マジで何言ってんだろ……
 ここで秋汰にバレたら、どーすんだよ。

 いや、もういっそバレてしまった方が気が楽かもしれない。

 んだよ……この無言の時間。秋汰、気付いてんのか……?