◇ ◆ ◇

「秋汰、起きろ。帰るぞ」
「ん……、あれ、俺寝とったん……?」

 目を擦りながら、ゆっくりと顔を上げる秋汰。
 居眠りレベルじゃなくて、ガチの爆睡だったのに自覚ないのかよ。

「マジで見事な爆睡してた」
「うそやん! えぇ?! ほんまゴメン!」
「いいよ、日誌終わったから。帰ろーぜ」

 両手で顔を塞ぎながらあたふたしている秋汰を見ると、思わず笑みがこぼれる。

 日誌を左手に、右手に自分と秋汰の鞄を持ち、立ち上がった。

 もう外も暗いし、担任にバレたら日誌にこんなに時間かかるわけないって言われそーだしな……
 バレないことを祈りながら、担任の引き出しの中に日誌をしまった。

「外暗いし送るよ」
「おぉ、ありがとうな」

 俺がそう言うと、秋汰は嬉しそうに駆け寄ってきた。
 そして学校を出て、秋汰の家の方へと歩き出す。幸い、あの女子はもう帰っていたみたいだったので少しだけ安心した。

 秋汰と俺の家の方向は全く違ったけど、遅い時間に一人で帰らせるのも、何かあったら危ないしな……

「なぁ……俺があの女子に会わんように……遅い時間まで一緒におってくれたん?」

 秋汰は遠慮がちに、そう問いかけてきた。
 正直に言えばそうだ。

 まず、あの二人に詰め寄られて、秋汰困ってたし……第一、あの女子と二人で秋汰が帰るなんて……なんか俺がヤダ。

「まぁ……」
「そうなんや……優しいんやな。ありがとう」

 秋汰は、いつもとは違うトーンの低い声で呟いた。
 なんだか落ち着かない。

「別に、困ってそうだったし」
 動揺を隠すように、俺も小さく呟いた。

 いつもは騒がしくて落ち着きのない感じなのに……たまにこうやって、落ち着いたトーンの低い声で喋り出すこともある。

 そういう秋汰のギャップって……何ていうか……一緒にいて落ち着かない。悪い意味ではないけど。