◇ ◆ ◇

「なぁなぁ、お前らって付き合おうと思えば付き合えんの?!」

 クラスの男子が俺らのほうへ寄ってきて、突然そう問いかけた。

「こふっ……!」
 あまりに突然だったため、思わず飲んでいたコーヒーを吹き出した。

「あぁ! いきなり変なこと聞かんといてや! つむコーヒー吹き出しとるやん!」
「いや、え……? マジでなに?」

 最近はマジでこの手の質問が多い。
 この前の女子もそうだし、こいつも……
 秋汰がインスタの投稿に俺のアカウントまで載せたせいで、DMにまで質問が来る羽目に。
 何故か、俺とのツーショはバズるらしい。よく分かんねぇ……

 でも冷静に考えたら、俺だけに聞いてるわけじゃないんだもんな……。

 こういうとき、秋汰は何て答えてんだ? 俺が何度か聞かれてるってことは、多分秋汰も聞かれてんだろ。

 と、俺が反応に困っていると……

「当たり前やん! 俺らいっつもベッタリやし!」

 秋汰は、机の上に置いていた俺の手の隣に、自分の手を寄せ、ピースしてみせた。

 コイツはいつもなんで勘違いされるようなことばっか言うんだよ……。意味ありげに捉えられたような気がしてならない。

 もしかして、俺が返答に困ってるの知ってて、代わりに答えてくれたのか?

「うわ! マジなヤツじゃん! きっも!」

 その男子はドン引きしたような目ではやしたてる。
 お前から聞いてきたくせに何なんだよ。

「は……?」
「わ、酷いわぁ。つむ巻き込まんとってや! 俺の片思いなんに!」
「秋汰……?」

 俺がその男子を睨みつけると、それに気付いた秋汰は、その男子の視界から俺を隠すように立ち上がった。

 そして、秋汰が冗談ぽく返した事によって、冗談だと納得したのか、そいつは笑いながら自分の席へと戻って行った。

 秋汰も秋汰で特に気にしていないように見える。
 でも……”きっも”なんて言われて、平気なわけがない。

「秋汰、大丈夫か?」
「何が? さっきの冗談やろ? 気にしてへんよ」
 平気そうにピースして席に座りなおす秋汰。

 秋汰がどう思ってようが、そういうのをド直球に言われたら……キツイんだろうな。今は笑ってるけど……無理してたりすんじゃねぇか……?

「つむは優しいねんな。そういうとこ大好きやで」

 俺が心配していると、秋汰は小さくそう呟いた。

 大好き……か。
 ああいう質問をされた後だから、より一層心の奥に響いたような気がした。

 でも、俺は知ってる。
 コイツの”好き”に中身なんてないってこと。

 ただのクラスメイトにも、先生にも、皆に言ってる。
 仲良くなって、ずっと一緒にいて分かった。

 秋汰は、誰にでも”好き”って言うんだ。