「そうなんだ。桜苑の方が探し物は得意だろうと思って」

「まあそうだが……主殿、ひとつ言っておくが、おそらく時空の妖異は無意識かもしれぬが、主殿が気づくきっかけをひとつ与えておるよ」

「え?」

「言うておったのだろう? 『人の形をした』、と。人間からすれば人間と妖異は区別あるものだ。じゃが、妖異からすればひとの形をしたものは、人間だけではない。そして、鳥と人、どちらの姿もとれるあやかしもおろうて」

「―――」

「そういうことだ、主殿。この人の子の地を探しても、いつになっても探し当てられぬだろう」

人の子の地を探しても意味はない。それは、この人間の世界にその場所はないということ。

あやかしには、あやかしだけの世界がある。

「――迷い込まされたということか、あやかしの里に」

「迷い込まされたか、取りこもうとされたかはわからぬ……。時空の妖異と人間の方から迷い込んだ可能性もあるゆえの。時空の妖異はわたしたちには格上だが、敬意を払う相手ではないのだ。好き勝手している存在ゆえ、権威とかかわりがないからな。そして取り込めば得られる霊力は無限大……実に美味しいエサだな」

「涙雨殿の一度目の行き倒れも、その可能性があるか……」

「ああ。記憶にない点は考えるところだが、記憶を奪う妖術は存在する。どうにか逃げたのかもしれぬが、霊力を分け与えてくれる主を得た時空の妖異が行き倒れなど、あるはずがない。しかも主は鬼の子供……。そこはわかっておろうな?」

「………」

涙雨の最初の行き倒れを、霊力の枯渇と最初に断じたのは白桜だ。

最初から白桜は、間違ってしまっていた。

「……二度目の行き倒れのとき、黒は涙雨殿に与えた霊符が効果を失っていたと言っていた。途中で使ったのだろうと言っていたが……」

「もし時空の妖異から霊力を奪うことが目的なら、主殿と幼馴染は掌(てのひら)の上だったということだな。幼馴染の霊力を、その霊符からしたたかに吸えたから、再びここはこの時空の妖異は解放して、また同じことをしよう、と」

「―――……俺の失態だ」