白桜の部屋の窓は、まだ雨戸は閉めていない。
窓の向こうに昏い世界が広がっている。
冬湖は門から一番近い離れにいる。
食事は、母屋(おもや)でそのとき邸内にいた人みなでとった。
食事は結蓮が中心となって、修行中の三人が作った使役が作っている。
まずは身近なところで実践ということで、御門別邸で雑務を行っているのは三人が練習のために作り出した式だ。
仕事のために別邸にいた御門の人間も何人かいるが、白桜に客人があることはたまにあることだったので、冬湖を変な目で見る者はいなかった。
そして仕事柄、深入りするような話を振る者もいない。
冬湖は配膳を手伝ったり洗い物を率先したりなど、有言実行していた。
結蓮の方が恐縮してしまっていたので白桜が冬湖を止めようとしたが、冬湖から「わたくしは客人ではなくお世話になっている身です。このくらいはさせてくださいませ」と強い眼差しで言われたので、白桜の方が引き下がった。
冬湖が御門の内情を探りに来た間者説は払拭できないので、天音と無炎によく様子を見ているように命じてある。
白桜は文机の上に文字盤の書かれた紙を敷いた。
頼るには負担の大きな相手だが、使うときに使わなくては意味がない。
桜苑はそうと知って、白桜の頼まれごとを請けている。
――桜苑(おうえん)。白桜の三基目の式。
両手をかざし、目を閉じて意識を集中させる。
「――桜苑(おうえん」」
意識を、肉体から離れさせる。
目を閉じたままで見える世界は、真っ暗だったが、白い闇のようなものに覆われる。
「主殿(ぬしどの)。いかがされた」
「うん、頼み事があってきた」
白桜は白い闇の中で、姿の見えぬ己の三基目の式に言葉をかける。
「わたしに? 主殿の神力(しんりょく)はかけらも失われてはおらぬよ」
「いや、探し物を頼みたいんだ」
「ふむ?」
白桜から簡単な経緯を聞いた桜苑は、「なるほど?」とうなずいた。
「その場所がわからぬから知りたい、と」