本家には白桜以外の子供はおらず、また、母白桃も一人っ子でおじやおばもいないため、本家筋から養子をとることは不可能。
本気で白桜に子供が出来なければ直系が絶えてしまう。
これは血筋を重んじる御門流にとってかなりめちゃくちゃやばい問題だ。
そんなただでさえ大変な身の上の白桜に、さらに問題を剛速球で投げつけてくるのが黒藤だ。
白桜への言動のせいで黒藤はすでに変わり者と認識されているのだが、それが一向に止む気配がない。
マジでお前の対応までしろってことかよふざけるなと言いたい白桜だ。
天音が称賛する小さい頃の黒よ、一体何があった。過去に飛んでこうなってしまった原因を取り除きたいと本気で思う。
まあ、それは許されないことだが。
再び自分の指を見る。
細い指。白桜は食事が好きではなかった。
生まれのこともあって己の命に否定的だったし、ともすれば、過去のどこかでふっと投げ捨ててしまっていたかもしれない。
そう思わせるくらいには、白桜は生きることに執着出来ないでいた。
白桜が今も生きている理由は、うざったいくらいの幼馴染がぎゃあぎゃあ言って来るせい以外に思いつかない。
『おや。わたくしのためとは、言ってくれんのかの?』
脳内に雪色の衣(ころも)が翻(ひるがえっ)た。
白桜の額にひとつ青筋だつ。
今日も今日とて白桜の思考の邪魔をしてくれるのは、その存在ひとつで白桜を生かしている太陰(たいおん)だ。
(思考くらい勝手にさせてくれ、太陰(たいいん))
『たいおん、じゃ、小童(こわっぱ)。何度言うてもおまえはそこがわからんの』
(せめてもの反抗だ)
『なんじゃ、反抗期なのか、おぬし。青いのお』
(貴方限定の反抗期だ)
『そうかそうか。わたくしを母と思って反抗してくるがよい』
(いい加減にしろ)
『まあ、言葉遣いの悪い小童だこと。ほほほ、よいよい、童(わらわ)は元気が一番じゃ』
(いやちっともよくないんだよ)
はあ、と現実でため息をつく白桜。
なんでこう、自分は現実でも脳内でも問題ふっかけてくる奴に恵まれているんだろう。
ちょぴっとだけ母を恨みたくなる。
『しかしおぬしの許嫁問題は現実味があろうて。もう十六じゃろう? とっくに成人しとるわ』