「みんな、姫巫女様はこちらにいらしたぞ!」

「お探ししましたよ、姫巫女様」

は? 黒藤は目を見開いた。いきなり、丘をのぼって数人の人間が現れた。

ひめみこ? 意味がわからないが、黒藤たちの方を見てそう言っている。

「おや、姫巫女様。男の子と密会なんて焔(ほむら)様が妬きますよ」

「君、どこの子だ? 姫巫女様、お知り合いですか?」

いやだからなんだよひめみこって。と、黒藤は頭の中で悪態をつくけど、この人たちが言っている対象がわかってきた。

この人たちが『ひめみこ』と呼んでいるのは白桜だろう。

見た目だけで言っても、白桜は中性的で黒藤は明らかに男子だ。

すっと、無月が黒藤たちの前に立った。

「うん? 見たことのない衣装だな。あなた方、本当に姫巫女様の知り合いか?」

「さあ姫巫女様、帰りますよ。月天宮(げってんぐう)で斎宮(さいぐう)様がお待ちです」

(―――はっ!? げ、月天宮に、斎宮!?)

書物の中で読んだことのある単語に黒藤は愕然とした。

そして、小路と御門に託された役目として継がれている話を思いだす。

まさかここは―――

「ここは、月の宮……?」

「少年? なにを当たり前のことを――」

「――なかなか帰らないと思ったら、何をしているんだ、お前たち」

凛と、鈴のような声がした。

ばっと、そこにいた人全員が振り返った。

丘をあがってくるのは、白と薄青の、日本の着物を原型にしてさらにゆったりと大きめの衣を羽織ったような姿の女性だった。

長いまつげが影を作り、刷いた紅は深紅。

顔から着物まで彫刻のような見た目だ。

女性は、黒藤たちを見て得心のいった顔をした。

それがひどく人間味があって、雰囲気を柔らかくする。

「……ああ、そういうこと。お前たち、協力感謝する。もう帰って構わないぞ」

「ですが斎宮様――」

「問題ない。この子はあたしが呼んでいたんだ。さあ、早く仕事に戻らないと風佳(かざか)にどつかれるよ」